研究課題
ペルオキシソームは極長鎖脂肪酸のβ酸化や過酸化酸素の分解等多くの重要な代謝経路を有する細胞内小器官である。これらの代謝機能を担うタンパク質(酵素)の多くはペルオキシソーム内部(マトリクス)に局在しており、ペルオキシソーム形成因子の一つであるPex14pはマトリクスへのタンパク質輸送の中心的分子として機能する。これまでに動物培養細胞においてPex14pがリン酸化修飾を受け、マトリクスタンパク質の輸送を調節することを示唆する結果を得ていた。本申請課題では、細胞内外の環境変化に応答した細胞内シグナル伝達およびPex14pリン酸化修飾によるペルオキシソーム機能の制御機構を解明することを目的とする。本年度は、H29年度に引き続きリン酸化修飾によるPex14pの機能制御の分子メカニズムについて解析を進めた。酸化ストレスの強度や時間の最適化により、Pex14pのリン酸化パターンの変動やPex14pのリン酸化部位を明らかにした。また、種々のリン酸化に関連したPex14p変異体を用いて、Pex14pのリン酸化の亢進によりペルオキシソームマトリクスタンパク質全般の輸送が抑制され、とくに過酸化水素分解酵素であるカタラーゼがサイトゾルに蓄積することを見出した。さらに、恒常的リン酸化模倣型Pex14p発現細胞は有意に酸化ストレス耐性を示すことを見出した。したがって、酸化ストレスによって誘導されるPex14pのリン酸化は、カタラーゼのペルオキシソーム輸送抑制・サイトゾルへの局在変化を介して一種の酸化ストレス応答として機能することが明らかになりつつあり、詳細の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
種々のリン酸化関連Pex14p変異体、およびそれらをPEX14欠損性CHO変異細胞に発現させた安定発現株を用いて、通常時には主にペルオキシソーム内に局在するカタラーゼのペルオキシソーム輸送が酸化ストレス時にはとくに抑制され、サイトゾルにも局在化することを見出した。カタラーゼのサイトゾルへの局在変化は酸化ストレス耐性を高めることも明らかにしており、Pex14pのリン酸化が酸化ストレス応答として機能するという新たなペルオキシソーム機能の制御機構の存在を示すものである。これらの成果から、ほぼ順調に進展していると判断した。
前年度に見出した、Pex14pリン酸化の亢進によるペルオキシソームマトリクスタンパク質輸送の抑制機構について、とくにカタラーゼの輸送が効率良く抑制される分子機構を明らかにする。これはペルオキシソームタンパク質輸送におけるPex14pの構造と機能制御の解明に新たな進展をもたらすものと考えられる。また、ペルオキシソームマトリクスタンパク質の受容体であるPex5pがレドックスセンサーとしてマトリクスタンパク質輸送を制御することが報告されており、酸化ストレス時におけるPex14pリン酸化との関連性を明らかにする。キナーゼ阻害剤等を用いた解析から、酸化ストレスによるPex14pリン酸化の上流シグナル伝達経路は複数存在することが示唆されており、上流キナーゼカスケードの詳細を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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