研究課題
後生細胞における細胞内膜は多様な動きを示すが、小胞体膜が示す動きの中で方向性を持たない揺らぎは他の膜系にはないユニークなもので、その分子メカニズムと生理作用を本研究では課題としてきた。この動き自体の解析は、オーバーサンプリングされた高速光分解能観察によりモニターして、動きを発生する機構の解明とその細胞内反応への影響について研究を進めた。いくつかの候補分子について発現抑制と遺伝子破壊を用いて検討を行ったが、いずれも単独で動きを発生することはなかった。そこで、この動きを生み出す機構をさらに詳細に解析したところ、生理的な条件で必要とされる要因と、マイクロMレベルで阻害する低分子化合物を見出した。詳細は、現在投稿準備中で、少なくとも1)本現象は膜の成分だけの作用により発生しており、小胞体内腔の構成成分は必要とされないこと、2)本現象は細胞質内での比較的低分子タンパク質の単純拡散を厳密に測定した場合にはほとんど影響は観察されないが、凝集性の強いタンパク質などについては弱い影響が観察されること、などが示されている。なお、本研究の過程において、一つの候補だったタンパク質のオリゴマー制御の解明に一分子輝度解析の手法を用いた研究を報告している。また、本現象での影響を受ける可能性のある凝集性を持つカーゴ分子としてプリオン蛋白を研究していたが、まったく予想外なことに、プリオン蛋白が本学でかつて発見されていた血液型を決定する新たな血液型因子である事が明らかになり、日本からの初めての血液型因子として国際委員会によって承認された。
3: やや遅れている
本来、主体としていた部分が他グループにより報告されたために、より困難な部分を克服する必要があるため、想定よりも遅れている。ただ、基本的な問題点として、再構成ができていないことが本課題を進める上での最大の要因となっている。
もっとも重要な点は何がこの動きを作っているかであり、これについては検討を続ける。おそらくこれは狭い空間における複数の酵素反応の非平衡状態によって作られており、この解明は、細胞という不均一系が司る複雑な現象を理解する上でひとつの手がかりかもしれない。
研究のとりまとめに想定以上の時間を要していることに加えて、研究に要する物品コストを大幅に減らすことができたために残額分を次年度に使用することとした。国内業者による研究試薬などの定価は以前と変わらないが、国内業者を介さずに、海外から直接購入する道が開けていて、これが大学でも許可されて可能になっている。
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