本研究は,HAG法(湿度調整と水溶性ポリマーのコーティングを用いたタンパク質結晶マウント法)をさらに発展させ,温度やpHが正確に制御された環境下での結晶内の酵素反応を直接観察することを目的としている.具体的には土壌細菌由来銅含有アミン酸化酵素(AGAO)を試料し,触媒サイクル(酸化的脱アミノ反応)におけるpH・温度に依存した活性中心のコンフォメーション変化と,補酵素TPQの生合成過程における前駆体Tyr残基からTPQへの構造変化の2つに焦点を当てる.延長期間である本年度は後半のTPQ生合成過程について,解析を行った. 補酵素TPQは,酸素および銅イオン存在下で,前駆体Tyr残基から自己触媒的に生成する.このため,まず我々は銅イオン非存在下で,大腸菌内にてAGAOを発現,精製し,本酵素の前駆体(Tyr型)結晶を作成した.得られた結晶は嫌気条件下で銅イオンを浸漬し,嫌気状態を保ったままSPring-8へ輸送し,ビームラインに設置されたHAG装置によって本結晶をマウントした.この結晶にさらに酸素(空気)を吹き付けることにより,結晶内でのTPQ形成反応を開始した.酸素添加後,経時的に回折測定を行い,反応を追跡したところ,結晶内で最終的にTPQが形成したことを確認できた.申請時には設計段階であった結晶顕微分光装置が令和元年に完成したため,それを使用した分光学的なデータも得ることに成功した.現在,詳細な解析を行っているが,構造変化についての重要な知見が得られ,我々がこれまでに提案した反応スキームをさらに拡張できた.
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