研究課題/領域番号 |
17K07321
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
安達 成彦 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別助教 (70707489)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 分子進化 / 構造生物学 / 転写 / 複合体 |
研究実績の概要 |
転写開始反応はゲノムDNAからの遺伝情報の読み出しにおける最初の反応である。転写基本因子TFIIDは全遺伝子の9割の発現制御に関わり、転写開始において中心的な役割を果たす因子であるが、15種類のサブユニットから構成される分子量1MDaの複合体であるため、高分解能の立体構造は未だ解析されていない。応募者はこれまでにTFIIDの大量精製法を確立してきたが、TFIID単独では形状が不安定なため、さらに5種類の相互作用因子を精製した。次の問題は因子を混合する順序だが、我々は近年開発した分子進化の新しい指標に基づき、進化の過程で誕生した順に混合するという着想に至った。本研究では、A. TFIIDの結晶化と結晶構造解析、B. 分子進化的解析、C. TFIIDを含む複合体の再構成と立体構造解析、を行う。 平成29年度は、Bに注目して研究を進めた。分子内ダイレクトリピート間の相同性の崩れは、重複直後の共通祖先と、現在の子孫遺伝子の進化的な距離を反映すると考えられる。私たちはこの値をdDRと名付けた。TFIIDのDNA結合サブユニットであるTBPや、TFIIBは分子内にダイレクトリピートを持つので、様々な生物種のTBP, TFIIBのdDR値を計算して相関を調べたところ、TBPがゼロの時点で、既にTFIIBは正の値を持っており、TFIIBがTBPよりも先に生まれたことが示された。前回の報告は34種と少ないサンプル数でdDRを計算していたので、平成29年度は入手可能な全ての公共データベース(真核と古細菌の450種)を使って計算を行い、TBPの対称性の崩れが、真核生物の転写反応の複雑化を導いたという分子進化モデルを発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は、本研究の根幹となるアイディアであるdDRを応用した研究成果をCell姉妹紙に論文発表することができたので [Kawakami & Adachi et al., Cell Reports (2018)]、当初の計画以上に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
A. TFIIDの結晶化と結晶構造解析:結晶が得られ次第、PFやSPring-8等の放射光実験施設を活用して回折データの収集を行う。回折データに基づいて、結晶の質の改善及び抗凍結剤の検討を行い、分解能の向上を試みる。抗凍結剤を利用しても分解能の向上が望めない場合は、当研究室で独自に開発した多段階凍結法を活用する。良好な回折データが得られた場合は、単波長異常分散法や分子置換法を駆使して結晶構造の決定を行う。必要に応じて、重原子クラスター等の利用も検討する。もし電子顕微鏡観察で良い像を得られれば、そのまま単粒子解析に進む。 B. 分子進化の新しい指標を利用して、TFIIDを含む複合体の集合順序を予測:引き続き、dDRに基づく解析を通して、分子集合や構造解析にヒントが得られないかを探る。 C. TFIIDを含む複合体の再構成と立体構造解析:B.の結果を受けて、dDR値を利用した分子進化的解析に基づいてTFIIDとその他の因子を混合する。もし、総当たりで検討するなら、単純に考えても7x6x5x4x3x2の5040通りを試みないといけないし、二者同時・三者同時の可能性を考慮するとさらに組み合わせが増える。本研究課題ではdDR値を踏まえてpol II, TFIIBなどを先に混合してコアを作り、その後TFIIDや他の因子を加えることとする。複合体形成については、熱安定性測定・動的光散乱・X線小角散乱・電子顕微鏡観察を組み合わせて確認し、得られた情報に基づいて、TFIIDを含む複合体の再構成・結晶化を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、論文作成に費やす時間が多く、実験のサイクルが若干遅くなったため、次年度使用額が生じた。
平成30年度は、論文作成も終了し、ポスドク1名が研究に加わったので、TFIIDの大量培養・精製・結晶化のサイクルを、ペースをあげて繰り返すこととする。次年度使用額は、精製に必要なTEV protease(10,000Uで25万円)の購入に充てることとする。
|