研究課題/領域番号 |
17K07326
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
菊川 峰志 北海道大学, 先端生命科学研究院, 講師 (20281842)
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研究分担者 |
宮内 正二 東邦大学, 薬学部, 教授 (30202352)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フォトサイクル / ナトリウムポンプ / 微生物ロドプシン |
研究実績の概要 |
ロドプシンは自然界に普遍的に存在する光受容膜タンパク質である。内包する色素レチナールの光異性化反応をきっかけとして、種々の光中間体を経由する光化学反応を示し、その間に機能を発現する。本研究は、近年、真正細菌から見出された外向きNa+ポンプ(NaR)の分子機構解明を目的としている。本年度は以下の知見を得た。 1)アルカリ塩湖から単離された真正細菌Indibacter alkaliphilusが持つNaR(IaNaR)の大腸菌発現系を構築した。種々の発現ベクターと大腸菌ホストの組み合わせを検討した結果、1 L培地あたり約40 mgの精製タンパク質を得るに至った。 2)IaNaRの光化学反応サイクルを過渡吸収分光測定によって詳細に解析した。その結果、光化学中間体として、K, LM, O1, O2, IaNaR'が順に生成することがわかった。NaRは長波長側に吸収を持つO中間体の生成・崩壊時に、Na+を取込み、次いで放出すると考えられている。本解析によって、O中間体には吸収波長の異なる二つの中間体O1,O2が存在することを見出した。また、O1は直前の中間体であるLMとNa+濃度依存的な平衡状態を形成したが、O2は単独で出現し、その生成・崩壊にNa+濃度依存性は見られなかった。よって、O1,O2はともにNa+をタンパク質内部に取り込んだ状態であるが、O1からO2への遷移時にNa+はタンパク質内を移動し、O2では外部溶媒から隔離されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜輸送担体の輸送素過程は、以下の3つの過程から成ると考えられている:1)物質の取込み、2)物質のタンパク質内移動、3)物質の放出。このうち、2)はスイッチ過程とも呼ばれており、膜輸送を実現する上で最も重要な過程であると考えられている。上述したO1からO2中間体への遷移は、NaRのスイッチ過程に対応すると考えられる。今後、この過程の詳細な解析によって、Na+輸送を駆動する仕組みの解明が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
上述の光化学反応の解析では界面活性剤に可溶化したIaNaRを用いた。しかし、他のNaRは、可溶化状態において膜再構成状態とは異なる光反応サイクルを示すことが報告されている。そこで、IaNaRをナノディスクへ再構成し、膜環境での光反応サイクルを明らかにする。ナノディスクは、膜骨格タンパク質が脂質二分子膜を取り囲んだ円盤状の構造体であり、その中に膜タンパク質を挿入することができる。ナノディスクの表面は浸水的なため、可溶化状態と同様に分散性が良く、可視光領域の分光測定に適している。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述した通り、IaNaRの大腸菌での大量発現が可能となった。そのため、IaNaRを大腸菌から精製するときに用いる高額な界面活性剤の使用を少なくできた。 次年度では、IaNaRを可溶化状態ではなく、ナノディスクに再構成して種々の測定を行う予定である。そのために必要となる脂質を多く購入する必要がある。そのほか、変異体を作成するための遺伝子工学用試薬、光学部品、及び、学会出席のための旅費に使用する。
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