研究課題/領域番号 |
17K07327
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
船越 祐司 筑波大学, 医学医療系, 助教 (30415286)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 低分子量G蛋白質Rab / 細胞内膜輸送 / RabGAP / TBC蛋白質 |
研究実績の概要 |
本研究では、RabGAPドメインであるTBCドメインを有しながら、GAP活性に必須のアミノ酸を欠くユニークなRabGAP(非定型RabGAP)に着目し、クラスリン非依存性に取り込まれる膜蛋白質(CIEカーゴ)の細胞内輸送における機能解明を目的とする。本年度は、上記のようなTBCドメインを有し、さらに脱ユビキチン化ドメインも有するTRE17について、1)TRE17によるがん細胞浸潤能亢進メカニズムの解明、および、2)TRE17の細胞内局在制御について解析を行い、以下の結果を得た。 2種の高浸潤性がん細胞株MDA-MB231(乳癌細胞由来)、HT1080(線維肉腫由来)を用いて解析したところ、TRE17は両者の浸潤能を亢進させることを見出した。また、TRE17は、CIEカーゴの一つでありがん悪性化と深く関わるCD147を脱ユビキチン化し、リソソームへの移行を抑制すること、その結果、細胞膜表面上でのCD147の発現量を増加させることを明らかにした。CD147は細胞外刺激に応じて、細胞外基質を分解する酵素matrix metalloproteinases (MMPs)を誘導するが、TRE17はCD147の発現調節を介してMMPsの発現を上昇させること、それらを介して浸潤能を亢進することを明らかにした。 一方で、TBCドメインに変異をもつTRE17の変異体を用いた解析から、TRE17がCIEカーゴを認識し、脱ユビキチン化、リサイクリングを促進するには、TRE17をCIEカーゴを含むコンパートメントに局在化させることが必要にして十分であることを見出した。さらに、細胞内局在を規定する因子を同定するために、細胞内においてTRE17と結合する因子をBioID法にて探索した。その結果、翻訳後修飾を担う因子を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、令和2年度にはTRE17によるがん細胞浸潤能亢進メカニズムを明らかにしており、新型コロナウイルス流行の影響によりやや遅れがでたものの、令和3年度早々には論文を投稿する予定である。 TRE17の他にも、TBC1D3、TBC1D24についても解析を進めており、両者がRab22Aを介して、CIEカーゴのリサイクリングに重要なチューブ様リサイクリングエンドソームの形成を促進することを明らかにしている。一方で、両者は異なるメカニズムでRab22Aの機能を調節していることも見出している。さらに、TBC1D3、TBC1D24がCIEカーゴのリサイクリングを介して、細胞の接着、遊走、増殖を制御することを示唆する結果を得ている。TBC1D24に関する研究成果は、令和2年度に論文が掲載されている。 このように、上記3つのRabGAPについて、CIEカーゴ輸送における機能、その分子メカニズムの解明、およびそれらを介した細胞機能制御、といった当初計画 した解析を実施し、一定の成果を上げた。これらのことから、本研究課題は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は研究期間を再延長し、令和3年度は、これまで成果を上げてきたTRE17、TBC1D3について、以下の解析を加える。 TBC1D3:これまでにRab22Aを活性化することを見出しており、その活性化メカニズムを明らかにする。さらに、TBC1D3は複数のがんとの関連が報告されていることから、がん細胞の増殖、腫瘍形成、転移における機能解析、その際にどういったCIEカーゴの輸送を介するのかを明らかにする。 TRE17:上記のように、TRE17がCD147の輸送制御を介してがん細胞の浸潤能を亢進させることを細胞レベルで明らかにしていることから、このシグナル系がin vivoにおいても癌細胞の浸潤・転移を促進するのかをマウスを用いて検証する。また、TRE17を相互作用する翻訳後修飾因子によるTRE17の局在制御機構を明らかにする。さらに、この因子はがんの悪性化や神経シナプス伝達にも関わることから、TRE17の制御を介してがんの悪性化や脳神経機能に関与するのかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により、当初予定していて計画の一部が実施できず、論文投稿が次年度にまで伸びてしまったため。投稿後、査読により追加実験を要求されることが想定され、次年度に使用する必要性が生じたことによる。 次年度に延長した予算は、論文投稿料、追加実験に必要な細胞培養関連試薬、遺伝子工学・生化学関連試薬、動物購入費に使用する予定である。
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