TORC1はTORキナーゼを中心とするタンパク質複合体で、栄養や成長因子に応答して増殖や代謝を制御する。本研究は、分裂酵母を用いた因子探索により、上流からTORC1の活性を調節する因子と、下流でTORC1による増殖制御を担う因子を同定し、これら因子群の機能と制御を明らかすることで、TORC1の「刺激に応じた活性調節機構」と「増殖制御の機序」の理解を目指した。 まず、TORC1の制御に関わるGtr1-Gtr2の結合因子として同定した4つのタンパク質からなるLam複合体について、詳細な解析を行った。その結果、Lamの遺伝子破壊株ではGtr1-Gtr2の液胞局在が欠損し、TORC1が過活性化していたことから、LamはTORC1を負に制御することが示唆された。 次に、TORC1を負に調節するGATOR1複合体に作用する因子を同定した。これらは、哺乳類GATOR2複合体に相当するものであった。このうち、Sea3の遺伝子破壊株は、他の構成因子とは異なり増殖遅延を示した。また、遺伝学的解析から、Sea3はGATOR1と同経路でGtr1-Gtr2を介してTORC1を負に制御することを見出した。以上から、分裂酵母ではSea3がGATOR1に組み込まれてその働きを補助する可能性が示された。 遺伝学的因子探索から、TORC1の下流で増殖制御を担う因子の候補として同定された転写因子について解析を行った。この転写因子を過剰発現すると、TORC1の欠損株の増殖遅延を回復することができた。また、この転写因子は栄養増殖時には核内に局在するが、飢餓やTORC1の不活化に伴い分解されることを見出した。さらに、この転写因子の遺伝子破壊株では、タンパク質合成に関わる因子の発現が変動していた。以上から、TORC1はこの転写因子の安定化を介してタンパク質合成を促進し、増殖を正に制御することが示唆された。
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