研究課題/領域番号 |
17K07331
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
白土 明子 金沢大学, 薬学系, 准教授 (90303297)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自然免疫 / 感染症 / 二成分制御系 / 細胞貪食 |
研究実績の概要 |
細菌には環境変化を感知して遺伝子発現を変化させ,新たな環境に適応して生育する仕組みがあり,これは,宿主に感染した細菌についてもあてはまる。宿主因子の情報を受け取ることで,細菌は宿主への感染維持や毒性発揮に働く物質の産生を変化させる。本研究では,大腸菌の情報伝達経路と,RNA合成酵素のシグマサブユニットに着目し,感染調節機構を明らかにすることを目的として行われている。 初年度は,細菌の情報経路のひとつである二成分制御系EnvZ-OmpRによる環境感知と毒性調節を扱った。膜型ヒスチジンキナーゼEnvZと転写調節因子OmpRはセットで働き,自己リン酸化により活性化したEnvZはリン酸基をOmpRに転移し,リン酸化されたOmpRが,制御下遺伝子群の発現を調節する。これまでに,EnvZ-OmpRに調節されるompC遺伝子が細菌の宿主調節に働くことを,大腸菌とショウジョウバエのモデル系から見出している。ショウジョウバエより回収した体液成分を大腸菌に混ぜて共培養すると,EnvZおよびOmpRがリン酸化されるとわかり,体液成分を加熱もしくはエタノール処理してもその程度に変化はなかった。本経路の活性化因子を探索するため,EnvZ-OmpRにより正に制御される遺伝子群のプロモーター活性化程度を利用した解析を進め,EnvZ-OmpRを活性化する宿主因子は,加熱処理に耐性で親水性の小型分子と考えられた。一方,OmpCは外膜タンパク質であり,宿主の免疫系がこれに作用すると考えられる。宿主免疫系のうち,液性応答を担うImd経路,細胞性応答の中心である食細胞の貪食受容体Draper, Integrinの寄与をショウジョウバエ変異体を用いて調べると,いずれの宿主因子もOmpCによる感染調節作用に必要ないと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画された実験が実施され,期待する成果が得られたことより,順調に進展していると判断した。 まず,宿主体液中に,大腸菌の二成分制御系のEnvZとOmpRを活性化し,下流遺伝子の発現を制御する活性成分が含まれているとわかり,活性は小型の親水性の分子が有すると考えられた。EnvZ-OmpRは多くのグラム陰性細菌が共通して有する細菌の情報経路であるが,浸透圧変化による物理的刺激により活性化されると報告されていた。今回の解析により,宿主体液中に,細菌情報経路の活性化因子が含まれるとわかり,物理的刺激以外のリガンドの存在が示された。一方,EnvZ-OmpRによる感染調節作用について,グラム陰性細菌に対する主要な液性経路であるImdに関わる因子や,食細胞であるヘモサイトの貪食受容体群の働きは必要ないと考えられる結果が得られた。このことは,感染調節に働く新たな宿主ー細菌応答の仕組みが存在することを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,初年度の解析で得られた知見を利用し,OmpCにより活性抑制される感染調節因子を得ることを目指す。OmpC欠損菌株は宿主傷害活性が高いことから,OmpCの働きは毒性因子の抑制と考えられる。そこで,細菌破砕液を遠心分離法や液固抽出法による分画,各種クロマトグラフィーによる連続溶出等の手法を用いて活性成分の精製を進める。そして,マススペクトロメトリー等により,大腸菌の宿主傷害物質を明らかにする。 一方,RNA合成酵素シグマ因子による感染調節についても,解析を加える。これまでに,大腸菌シグマ因子のシグマ38は,宿主ショウジョウバエへの感染時に,転写後調節により一過性に発現亢進して,感染維持に働くことを示してきた。シグマ因子の転写後調節は,低分子RNAやRNA結合タンパク質により行われることが報告されていることから,感染時のシグマ38の発現や機能の亢進に働く分子を見出し,感染調節の仕組みを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室所有の試薬を節約することで,実験が実施できたために差額が生じた。該当する解析は翌年度も引き続き行われるため,差額を合わせて計画を遂行する。
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