宿主因子を感知する際,細菌は膜受容体と転写調節因子とから構成される二成分制御系を用いて,宿主内環境を感知してそれに適応して生存できるように遺伝子発現を変化させる。両者ともに遺伝子発現のパターンを変化させた結果,その総和が,感染の成立,細菌の排除,あるいは両者の共存などの両者の関係を規定すると考えることができる。細菌は,宿主免疫に抵抗して生き延びる必要があるが,どの毒性が強すぎると宿主が死んで生きる場を失う。これより,細菌には毒性の発揮機構とともに,自身の毒性が強すぎないように抑制して,宿主が死なないように調節する機構を持つと予想できる。 本研究では,このような考えに基づき,細菌が持つ,普段ははたらいていないが,感染時に毒性を調節して宿主との共存に働く因子を同定し,この仮説を物質的に証明することを目的としている。そのために,代表者が樹立した遺伝学モデル感染系を利用してこの課題に取り組んできた。 これまでに,RNA合成酵素のシグマ因子の中に,宿主内で増えて細菌の宿主毒性因子を解毒する酵素を誘導する種類を見出した。また,ストレス応答性の転写調節因子が転写ではなく翻訳後に量的制御を受けて毒性発揮に働くことを示した。そして,細菌の膜受容体の中に,宿主体液により活性化して毒性の活性化や抑制に働く複数種類を見出している。今回は,そのような受容体の活性化により制御される毒性因子のと,受容体を活性化する体液因子の同定と役割の解析を行なった。その結果,ある種の膜結合性タンパク質群の中に,当該受容体の存在により存在量が増加する種類を見つけ,さらに膜タンパク質が新規毒性因子の存在量を調節することを見出している。また,目的とする宿主因子として,これまで部分精製を行なってきたが,今回,最終同定に向け候補の範囲を絞り込んだ。
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