研究課題/領域番号 |
17K07333
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
笠井 倫志 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (20447949)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ダイマー形成 / G蛋白質共役型受容体 / 蛍光1分子観察 / リガンド刺激 / 動的 |
研究実績の概要 |
リガンド結合とダイマー形成が共同的に働く事で、G蛋白質共役型受容体(GPCR)がシグナルを生成するという作業仮説の検証を進めた。そのためまず、ダイマー化したGPCRだけを蛍光1分子観察法で細胞内可視化する方法の開発を試みた。これには、BiFC(Bimolecular Fluorescence Cmplementation)という方法を用いた。まず、YFPなどの蛍光蛋白質を2つの無蛍光の蛋白質部分BiFC_NとBiFC_Cに分けておき、それぞれ目的のタンパク質にタグとして結合させて同じ細胞に発現させておく。目的のタンパク質が数ナノメートル以下に近づいて物理的に相互作用することで、2つの無蛍光の蛋白質部分が蛍光蛋白質として再構成するので、生じた蛍光を観測する事で目的タンパク質が相互作用することを確かめる方法である。 この方法を用いて、β2アドレナリン受容体(B2AR)というGPCRのダイマー形成の検出を試みたところ、N末にBiFCタグを導入した場合は蛍光を観察できなかったが、C末にタグを導入した場合には蛍光を観察する事ができた。即ち、ダイマーを形成するB2ARだけをラベルする事ができた。さらに、B2ARダイマーは、C末同士が近く、N末同士は離れている事が示唆された。 次に、ダイマーを形成するB2ARの活性化を、活性化したB2ARの構造を認識する抗体様小分子であるナノボディを用いて調べた。有機蛍光色素でラベルしたナノボディと、GPCRダイマーの目印であるBiFCとの二色同時蛍光1分子観察を行った。その結果、刺激前から、GPCRダイマーの一部は活性化した受容体を含んでいることが分かった。さらに、リガンド刺激によって、活性化したダイマーの割合は約3倍に増えたことが分かったことから、リガンド刺激後、ダイマーを形成する受容体が実際に活性化したことを直接確認する事ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞膜上のダイマー形成だけを特異的に可視化する蛍光1分子プローブである、BiFC化GPCRを作製する事ができた。これを用いることで、ダイマーの相互作用面では、N末同士は遠く、C末同士は近い可能性がある事がわかった。一方で、現在用いているBiFCプローブでは、再構成した蛍光蛋白質分子からの蛍光は暗いうえに明滅が激しく、一回当たりの蛍光寿命も数十ミリ秒と短いため、ダイマー寿命を測定することは難しかった。また、同じダイマーに何回下流のシグナル分子がリクルートしてくるかを数える実験を行うことも難しそうである事がわかった。 活性化した受容体特異的に結合する抗体様分子ナノボディを用いた観察では、リガンド刺激前にも細胞膜にリクルートしてくるナノボディの様子を1分子レベルで捉える事ができた。これは、刺激前にも活性化した受容体があることを示している。また、リガンド刺激後には、細胞膜にリクルートしてくるナノボディの数が約2倍に増える様子を捉える事ができた。ダイマーを形成する受容体が活性化しているかどうかを調べるため、BiFC化GPCRとナノボディの二色同時蛍光1分子観察を行い、受容体の活性化を1分子レベルで調べた。その結果、活性化した受容体を含むダイマーの割合は、リガンド刺激添加後に約3倍増えることが分かったことから、ダイマーを形成するGPCRのうち、少なくとも一つの受容体は、リガンド刺激後に確かに活性化していることを直接証明する事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、再構成したBiFCの蛍光を1分子観察することは可能であるが、明滅が激しくシグナルも弱いため、蛍光寿命からダイマー寿命を求めたり、ダイマーに次々とリクルートしてくる下流シグナル分子の様子を捉えたりするのは難しい。そこで、BiFCに用いる親蛍光分子をいくつか試したり、アミノ酸の変異の導入を試したりすることで、BiFC再構成後の蛍光の明滅を抑え、蛍光寿命を延ばして得られるシグナルを増やすことを目指す。 リガンド刺激前後で、BiFC化GPCRの輝点数と膜上のナノボディの輝点数を数え、ダイマーの個数と活性化した分子の個数を比較する。両者の相関から、ダイマー量に対して分子が活性化される量がどのように変化するかを調べる。 受容体の活性化状態の寿命と不活性化状態の寿命、それらの動的変換の様子を高い時間分解能で測定するため、外れやすく、かつ、付きやすいナノボディの改良を変異導入によって行い、受容体とのFRETによる活性化の1分子リアルタイム検出にも引き続き挑戦する。さらに、受容体とナノボディとの二色蛍光1分子観察を行い、ナノボディは、モノマー・ダイマーのどちらにより多くリクルートしてくるかを定量する。 また、活性化してもダイマー寿命が変化しない変異体を用いたり、人為的にダイマーを生成・解離させたりすることで同様の実験を行い、動的なダイマー形成がリガンド刺激後のシグナル生成に及ぼす影響を明らかにする。 これらの実験から、リガンド刺激とダイマー形成が共同して生じるシグナル生成の仕組みを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を開始した当初には予定していなかったが、研究代表者が所属する研究所の施設改修に伴う、研究室の所内引っ越しが2017~2018年度に生じる事がわかった。これに伴った実験室の改修作業の準備のため、2017年度に導入を予定していた実験装置の購入ができなくなった。 2018年度は、実験室が利用可能になる時期に合わせて、研究を遂行するために必要な実験装置を速やかに購入する。
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