研究課題/領域番号 |
17K07334
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 博幸 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 准教授 (10243271)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | SecDF / PMF / タンパク質膜透過 / 細菌 / 分泌 |
研究実績の概要 |
細菌のタンパク質の膜透過には、進化的に高度に保存された膜透過チャネルSecYEGトランスロコン、必須の駆動モーターSecA ATPase、膜タンパク質複合体SecDFが中心的な役割を果たす。我々はSecDFの構造機能解析を通して以下の作業仮説を提案している。即ち、「膜を挟んで形成されたPMF(プロトン駆動力)エネルギーを利用して、SecDFは、プロトンの流入と共役して自身の構造変化を起こし、それが膜外ドメインの更なる構造解析を誘起し、膜透過途上の基質タンパク質を補足し引っ張り出す。」というものである。本研究では、この作業仮説を検証することにより詳細な分子機構の解明を目指す。具体的には、1)SecDF分子内のプロトン透過経路の決定、2)基質結合部位の道程、3)プロトン透過と基質タンパク質の動きの共役機構の解明の3点が主要な問題となる。先年の研究により、NAISTの塚崎博士達との共同研究により、SecDFの異なる結晶構造を解明し、その構造情報から、プロトンの透過経路と基質結合部位に関して新たなモデルを提唱することができた。本年度は、プロトン透過とSecDの細胞外ドメインの構造変化の共役を部位特異的in vivo光架橋法を用いて検討した。その結果、プロトン透過能と細胞外ドメインの構造変化の間には密接な関係があることを示すデータを得たものの、現段階では上手く解釈できない結果も残されており、今後の重要な課題である。また、SecDの非細胞質ドメインの変異解析の結果から、SecDの機能を著しく損なうポイント変異を同定し、更にその機能低下を抑圧する分子内サプレッサーの分離にも成功した。これらの研究結果は、SecDFの作用機序の解明の重要な手掛かりになるものと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
プロトン流入と共役したSecDのP1ドメインの構造変化の実態を、部位特異的in vivo光架橋法を用いた分子内架橋形成の効率の変化を指標にして解析を進めている。プロトン流入に必須のアミノ酸残基への変異導入や、PMFの消失を促すCCCP処理によって、架橋形成効率が著しく低下するなど、作業仮説を概ね上手く説明できる結果が得られつつある。その一方で、得られたデータの一部は、現在の作業仮説では解釈困難な物がある。その解明を目指して現在研究を進めているものの、未だ解決の明確な糸口は得られていない。加えて、研究を担当していた大学院生の修了に伴い、本研究テーマに従事するメンバーが減り、全体的なactivityが低下してしまった。当初の予想に比べると若干の遅れがあると感じている。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度が最終年度であるため、上記問題の解決を目指して以下の研究を進める予定である。 光反応性のアミノ酸アナログpBPAの導入は、我々が決定した高度好熱菌由来のSecDFの立体構造情報に基づいている。実際に実験に用いている大腸菌由来のSecDFには、高度好熱菌SecDFには見られない挿入配列が複数箇所存在しており、この違いが、データが解釈できない一因となっている可能性が考えられる。そこで、1)該当する挿入配列を除去した変異型SecDを作成し、この変異体が機能を持つことを確認した後に、光架橋実験を進める。2)高度好熱菌SecDFを大腸菌中では発現させた場合、少なくとも20℃の低温では機能しない。そこで、高度好熱菌SecDFがより機能しやすい高温条件下での機能評価系を構築し、高度好熱菌SecDFの大腸菌中での機能を明らかにする。(少なくとも、高度好熱菌SecA, SecYEは37℃でも機能することを既に見出している。)その後、高度好熱菌SecDFを用いてin vivo光架橋実験を進め、モデルの妥当性の検証を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
大学院生の修了により本研究に直接従事する研究者の数が減少し、それに伴い研究の遂行に必要な物品費や学会参加などに必要な旅費の使用金額も減る結果となった。次年度も、新しく本プロジェクトを担当する大学院生を充当することは研究室の事情などから困難であるため、研究代表者が本研究により深く関与することにより精力的に研究を進める予定である。次年度に繰り越した予算は、変異体の作成を外部に委託するなど、効率的に研究を進めるための費用に用いる予定である。
|