研究課題
プラスマローゲンの生合成は、ペルオキシソーム局在性C末アンカー蛋白質fatty acyl-CoA reductase 1 (Far1)の細胞内プラスマローゲン量依存的な分解調節により制御されること、すなわちFar1がプラスマローゲン合成の律速酵素であると明らかにしてきた。これまでに、プラスマローゲン合成不全細胞ではFar1の分解が抑制され、Far1のタンパク質レベルが野生型細胞に比して増加することを見出している。加えて、野生型と比較してプラスマローゲン量が約50%程度まで減少するペルオキシソーム形成障害マウスの小脳と腎臓では、FAR1mRNAは野生型と同程度であるもののFar1タンパク質レベルは増加することも見出している。今年度、プラスマローゲン合成初発酵素であるdihydroxyacetonephosphate acyltransferase のノックアウトマウスの小脳でも、野生型マウスと比較してプラスマローゲン量が著しく減少し、Far1タンパク質レベルが増加することを見出した。次いで、プラスマローゲンの恒常性維持の生理学的意義の解明を試みた。これまでに、プラスマローゲン欠損細胞ではコレステロールの生合成が抑制されることを見出している。加えて、プラスマローゲン欠損細胞では、コレステロール生合成の中間体であるスクアレンのエポキシ化を触媒する酵素であるsqualene monooxygenase (SM)の分解が抑制され、その結果SMのタンパク質レベルが増加するためコレステロールの生合成が抑制されるとの障害機構を明らかにしている。これらの知見に基づき、上述の2種のプラスマローゲン合成障害マウスの小脳においてSMのタンパク質レベルを検証したところ、プラスマローゲン欠損細胞と同様に、野生型に比してSMのタンパク質レベルの増加とともに、コレステロール量の有意な減少を見出した。
2: おおむね順調に進展している
プラスマローゲンが約50%減少するペルオキシソーム形成障害マウスおよびプラスマローゲン合成不全のマウス小脳において、Far1のタンパク質レベルの増加を見出した。これらの成果は、個体においてもプラスマローゲンの生合成は、プラスマローゲン量依存的なFar1の分解調節により制御されると強く示唆するものである。さらに、上述の2種のマウスの小脳において、SMのタンパク質レベルの増加とコレステロール量の有意な減少を見出した。コレステロールは末梢組織から脳へは供給されないことから、小脳のプラスマローゲン恒常性維持によるコレステロールの生合成調節の発見は、プラスマローゲン恒常性維持の生理的役割の一端を明らかにする新たな知見といえる。これらの新たな成果を得ていることから、ほぼ順調に進展していると判断した。
ペルオキシソーム形成障害マウス腎臓においてFar1のタンパク質レベルでの増加を見出している。同様の変化が、腎臓以外の主要な抹消組織においても見られるのか検証する。また、小脳以外の脳の領域でのFar1のタンパク質レベルも明らかにする。加えて、プラスマローゲン合成中間体であるアルキルグリセロールを投与したマウスでのプラスマローゲン量とFar1のタンパク質レベルを検討する。これらの成果から、プラスマローゲン量依存的なFar1の分解調節が個体のプラスマローゲン生合成の主要な制御機構であるのかを明らかにする。次いで、プラスマローゲン合成障害によるコレステロールの生合成抑制に着目し、ペルオキシソーム形成障害マウスおよびプラスマローゲン合成不全マウスに共通な小脳の病態発症機構を明らかにする。また、アルキルグリセロール投与によってプラスマローゲン量が野生型よりも増加すると推察される肝臓に着目し、プラスマローゲンの増加による個体への影響を明らかにする。これらの研究から、個体におけるプラスマローゲンの恒常性維持の生理的意義を解明する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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