研究課題
ErbBファミリーは、EGFR、ErbB2、ErbB3、ErbB4の4つの分子からなる増殖因子受容体ファミリーである。いずれも、がんの発症・進展に関わる分子であるが、その機能制御メカニズムを理解するには糖鎖の解析が不可欠である。本研究では、N型糖鎖によるErbB受容体の機能制御メカニズムを明らかにすることを目指す。これまでにEGFRやErbB3のドメインIIIの特定の糖鎖が二量体形成に関与していること、またその糖鎖を欠損した可溶型ErbB3や、可溶型EGFRではシグナル抑制作用が増強することを明らかにした。また、北海道大学先端生命科学研究院姚閔先生および加藤公児先生との共同研究で、可溶型ErbB3では糖鎖欠損変異体において熱安定性が低下することを観察している(未発表データ)。平成29年度の研究では、1)可溶型EGFRの大量精製を行い、X線結晶構造解析を試みたが構造が決定できなかった。また、示差走査熱量測定によって変性温度を測定したが、はっきりしたデータが得られなかった。2)可溶型ErbB3の小角散乱の解析を行ったが、試料の純度や量の問題で、はっきりしたデータが得られなかった。現在試料を再度調整中である。また、分子の構造変化のしやすさ(柔軟性)の指標を検討する。3)可溶型ErbB4の大量精製を行い、大阪母子医療センター和田芳直先生との共同研究で、11か所の糖鎖付加ポテンシャル部位における糖鎖付加の状況を観察し、各糖鎖構造を決定した。また、ErbB4の糖鎖欠損変異体を細胞に導入したところ、ドメインIIIのAsn333に付加する糖鎖が重要であることが示唆された。このようにErbBファミリーの糖鎖を同じ手法で解析することによって、ファミリーに共通の機能や特定のレセプターにユニークな機能を観察できると考えている。
2: おおむね順調に進展している
当初、平成29年度は「ErbB3およびEGFRの糖鎖欠損変異体の物性の解析」を計画していた。北海道大学先端生命科学研究院姚閔先生、加藤公児先生との共同研究で、可溶型ErbB3と可溶型EGFRの物性の解析を試みたが、ErbB3の小角散乱のデータが得られなかったほか可溶型EGFRのX線結晶構造解析と示差走査熱量測定による変性温度の測定でも、はっきりしたデータが得られなかった。これら物性の解析は今回の研究の最も中心となるものであり、タンパク質の大量精製システムの見直しから始めている。また、分子の構造変化のしやすさ(柔軟性)の指標を検討することを考えている。その他では、当初の計画では平成30年度以降に行う予定であったErbB4の糖鎖の解析を行った。大阪母子医療センター和田芳直先生との共同研究であるが、ErbB4の11か所の糖鎖付加ポテンシャル部位に付加する糖鎖の構造を全て明らかにすることができた。ドメインIIIの糖鎖付加ポテンシャル部位は4か所存在するが、糖鎖付加率がいずれも100%であることが分かった。特に、ドメインIIIのAsn333の糖鎖を欠損する変異体ではシグナルの増強が見られ、重要な機能を持つことが示唆された。今後、糖鎖改変可溶型ErbB4の物理化学的性質を検討する予定である。ErbB2の糖鎖解析についても、細胞外ドメインの大量精製から開始しており、順調に進んでいる。今後、機能的に重要な糖鎖を決定するほか、糖鎖改変sErbB2の物理化学的性質を検討する予定である。全体として、研究の順番は前後したが、研究計画自体は進んでいると考えている。
平成30年度は、可溶型ErbB3と可溶型EGFRについて、糖鎖の改変が可溶型EGFRの物性に与える影響を引き続き調べる。具体的には、X線結晶構造解析、示差走査熱量測定、小角散乱の解析であるが、特に小角散乱の解析はタンパク質を増量することによってデータの改善が可能と考えている。可溶型EGFRについては野生型、糖鎖欠損変異体の両方とも大量発現できるクローンが得られており、細胞培養の方法を工夫するなどで大量精製を行う予定である。可溶型ErbB3については、現在野生型、糖鎖欠損変異体のクローンを樹立中である。その他、可溶型EGFR同士の相互作用、あるいは可溶型EGFRのflexibilityの指標などを検討したいと考えている。ErbB2とErbB4の糖鎖の構造解析と機能解析に関しては、計画通り進めたいと考えている。ErbB2は可溶性ErbB2の精製が進んでいるので糖鎖の構造解析は可能と考えているが、その後の機能解析では細胞内シグナルの解析が困難であること(内在性ErbB3のみが発現している細胞に外来性に野生型あるいは変異型ErbB2を発現して比較することを計画している)、糖鎖改変変異体の発現が困難であること(予備実験では細胞膜への移行に問題があることが示唆された)がわかった。また、ErbB4は糖鎖の構造解析は完了したが、糖鎖欠損変異体のシグナル解析が困難であることがわかった。以上のポイントについては、安定発現細胞の作製法になどに改良の余地があると考えており、問題を解決しつつ最終的にはErbB受容体の4つのメンバー全てのN型糖鎖の構造と機能を明らかにする。
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