増殖因子受容体ErbBはがん治療のターゲットとなっており、その制御機構を明らかにすることは非常に重要である。研究代表者は糖鎖によるErbBの制御機構について調べてきた。本研究では、とくに糖鎖が受容体の物性にどのように影響するかを検討した。 ErbB受容体(EGFR、ErbB2、ErbB3、ErbB4)はそれぞれ10か所前後の糖鎖付加部位を持っている。そのうちEGFR N420の糖鎖、ErbB3 N418の糖鎖、ErbB4 N333の糖鎖は、受容体分子の二量体形成や活性化に関与していることが示唆された。これらの糖鎖の付加率と構造を調べたところ、少なくともCHOK1細胞では全て付加率100%で、フコースのないコンプレックス型であるという共通した特徴があることがわかった。可溶型受容体の性質を調べたところ、sEGFR N420Q糖鎖欠損変異体やsErbB3 N418Q糖鎖欠損変異体は野生型と比較してシグナル抑制作用が増強していることがわかった。これらの変異体は膜上の受容体とヘテロ二量体を形成しやすくなっていることが予想された。X線結晶構造解析では、sErbB3 N418Q糖鎖欠損変異体と野生型で差が見られなかった。示差走査熱量測定によって、N418Q 糖鎖欠損変異体は野生型と比較して熱安定性が低下していることがわかった。N418の糖鎖はsErbB3の構造安定性に寄与しており、その糖鎖の欠損変異体は構造変化を起こしやすい状態にあることが示唆された。 ErbB3 N418の糖鎖の構造上の特徴が、その機能に関係しているかどうかは不明である。しかしながら、同様の特徴を持つEGFR N420の糖鎖やErbB4 N333の糖鎖が似た機能を持つことは非常に興味深い。さらに他の受容体の糖鎖を解析し、糖鎖の構造と機能の関係について明らかにしたい。
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