研究課題
GAREMにはGAREM1とGAREM2、2つのサブタイプが存在する。両GAREMには数種の共通した機能領域があり、細胞内ではEGF刺激を受けるとそのシグナル伝達のために機能する。大きな違いとしてヒトやマウスにおいてGAREM1は広範な臓器に発現しているのに対し、GAREM2は脳で特異的に発現している。今年度は、脳特異的に発現するGAREM2の動物個体内での両分子の役割を明らかにするために、ノックアウト(KO)マウスを作製し、マウスの行動面からその表現型を調べる目的で行動解析実験等を実施した。GAREM2KOマウスは正常に誕生し、生育しているように見られた。しかし、飼育中に野生型(WT)のマウスと比較してKOマウスは反応が過敏に感じられ、育児放棄なども目立っていた。そこで、KOマウスの行動面から表現型を解析するために、研究協力者である内匠博士と共同で、マウスの行動解析実験(行動試験バッテリー)を実施した。実際に行動解析実験としては、基本的な身体測定や神経反射異常の有無を調べた後、Open・Closed Arm(Open:抗不安の指標)での滞在時間を基に活動量・不安様行動を調べるElevated Plus maze(高架式十字迷路)やOpen Field test(オープンフィールド)、初見マウスとの接触等の社会的行動について視るためにSocial Interaction(社会的相互作用テスト)等の試験を実施した。加えて、協調運動・運動学習を調べるRotarod(ローターロッド)、空間学習・空間記を評価するMorris water maze(モリス水迷路)等の試験を行い、その結果を基に統計解析によってWT群とKO群を比較した。また、CLAPBPは近年アミノ末端がN-ミリスチン酸化されることが明らかにされ、その役割についての解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
GAERM2KOマウスの行動試験解析の結果については、Elevated plus mazeとOpen field テストの結果から、WTマウスと比較してKOマウスは不安度(Anxiety)が低く活動量が多い事が判明した。まずはGAREM2発現の有無により脳機能における表現系の差が出たことは非常に興味深く、今後の研究の発展につなげていきたい。また、CLPABPのN-ミリスチン酸化はCLPABPのタンパク質安定性に寄与しているという解析結果が得られ、学術論文として報告した。
1、GAREM2KOマウスは低不安度と高活動性が見受けられた。また、培養神経芽腫細胞(SH-SY5Y細胞)を用いた実験ではGAREM2は神経突起伸長を促進することが示唆されており、KOマウスでは脳において神経突起の伸長がうまくいかずこのような表現型が現れたのではないかと考えられる。そのメカニズムを解明するため、より詳細な脳の部位におけるGAREM2発現の解析、初代培養神経細胞や脳組織切片を用いた細胞・組織形態学的なアプローチによる解析等も行う予定である。2、現在までにGAREM1のKOマウスについては野生型と比較して若干の低体重を示す以外に目立った表現型は観察できていない。GAREM2は脳特異的に高発現しているが、非常に微量ではあるが、他の臓器にも転写レベルでは発現が認められる。そのため、GAREM1の役割を相補している可能性は否定できない。そこで、GAREM1と2の両方の遺伝子を破壊したマウスを、それぞれのKOマウスを交配することで樹立し、体重や各臓器の重量や機能についての解析を行う予定である。3、一方、CLPABPに関してはそのPH領域に結合するリン脂質とCLPABPの機能に関してのアプローチを行う予定である。また、CLPABPは肥満関連遺伝子転写物の安定性を調節する役割があることをこれまで見出している。現在、そのKOマウスから得られた胚性幹細胞(MEF)の転写物について、野生型MEFとの差を網羅的に解析するためのRNA-seqを試みている。その結果から得られた候補遺伝子の3’非翻訳領域に着目する。CLPABPはmRNA安定化因子HuRの機能を抑制することがわかっているので、各候補遺伝子の3’非翻訳領域をレポーター遺伝子下流に連結し、CLPABPのmRNA安定性制御について解析を進める予定である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件)
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 495 ページ: 1249-1256
doi: 10.1016/j.bbrc.2017.11.112. Epub 2017 Nov 24.
J Hum Genet.
巻: 63 ページ: 297-307
doi: 10.1038/s10038-017-0367-x. Epub 2017 Dec 22.