研究実績の概要 |
これまで、低分子量Gタンパク質Rasが誘導する細胞増殖シグナル、発がんシグナルにおいて、NKiRasが関与することを見出し、その分子機構について解析を行って来た。特に相互作用分子としてTRB3、DDB1、NONO、SFPQが同定された。2017年度は、がん化型Ras変異体が誘導する遺伝子発現に着目し、解析を行った。まず、炎症性サイトカイン受容体ST2の発現誘導機構を明らかにした(Tago et al., FEBS OpenBio, 2017)。がん化型RasおよびRasを介した細胞増殖刺激はERK経路の活性化および転写因子STAT3を介してST2プロモーターを活性化することが明らかになった。また、これまでRas変異体が誘導する発がんシグナルにおけるST2の役割は明らかでなかったが、ST2の強制発現が、がん化型Ras変異体の形質転換能を促進すること、さらに、ST2の発現抑制がRas変異体による形質転換を顕著に抑制することが明らかになった(Tago et al., Heliyon, 2017)。しかしながら、ST2およびIL-33の発現誘導にNKiRasは関与していないことが確認された。NKiRasをノックダウンすることにより、Rasによる発現誘導が抑制される遺伝子群をDNAアレイ解析により探索した。その結果、細胞の1次繊毛や中心体に局在し、細胞増殖などに深く関与するCEP290の発現がNKiRasに依存することが明らかになった。さらに尿素輸送体Slc14A1がNKiRasに依存して、発現誘導されることが明らかになった。現在、CEP290、Slc14A1のプロモーター解析などを行うことにより、NKiRasの下流で機能する転写因子を同定し、その活性化機構を検討していくことを計画している。
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