研究課題/領域番号 |
17K07344
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
林 真理子 国際医療福祉大学, 医学部, 講師 (30525811)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グルタミン酸 / ペリニューロナルネット / 興奮毒性 / 神経細胞死 / グルタミン酸トランスポーター / ヒアルロン酸 |
研究実績の概要 |
グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性伝達物質であり,その過剰な作用は神経細胞死をひきおこす.グルタミン酸トランスポーターは興奮性シナプスに放出されたグルタミン酸を回収することによってシナプス伝達を終結させるとともに,過剰な興奮から神経細胞を守っている.これまでに,膜蛋白質であるヒアルロン酸合成酵素によるヒアルロン酸の合成がグルタミン酸トランスポーターの活性を支え,局在を調節するという予備的結果を得ていた.初年度の計画はヒアルロン酸がグルタミン酸トランスポーター安定化を介した神経保護作用を持つ可能性を評価するというものであった. そこでまず,ラット大脳分散培養を条件最適化し,神経細胞がヒアルロニダーゼ感受性を示すことを確認した.Fura-2AMを導入してヒアルロニダーゼ処理したところ,神経細胞体および樹状突起における細胞内カルシウムの上昇がみられ,グルタミン酸受容体のアンタゴニストカクテルで抑えられた.さらに,樹状突起マーカーであるMAP2の断片化も,ヒアルロニダーゼ処理によりグルタミン酸の過剰投与と同程度にみられ,神経毒性を確認できた.そこで,ヒアルロン酸が神経保護作用を持つ条件を探索したところ,ヒアルロニダーゼに0.2%もしくは0.5%のヒアルロン酸を同時投与することでMAP2の断片化を完全に抑えることができた. さらに,血清は神経毒性につながる濃度のグルタミン酸およびヒアルロン酸,ヒアルロニダーゼの両方を含むため,その神経毒性を調べた.ラット大脳初代培養に投与したラット血清は,10倍希釈でも神経毒性を発揮しMAP2の断片化を起こしたが,0.2%もしくは0.5%のヒアルロン酸により抑えることができた.こうしたことから,ヒアルロン酸にはヒアルロニダーゼだけではなく血清の持つ神経毒性を抑える性質があることを明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究のため,ヒアルロン酸の神経保護作用を安定的に評価できるだけではなく,神経保護作用の創薬スクリーニングに用いることができるような,安定で大量に調整でき,ハイスループット解析が可能な培養条件を検討した. 新生仔ラット海馬と並行して,大脳半球からの初代培養を作成し比較したところ,海馬よりも安定に神経細胞を育てることができた.また一腹から調製できるサンプルの量を7倍に増やすことができた.さらに,この培養系のアストロサイトは海馬から調製したサンプルと比較して成熟が進んでおり,アストロサイトの単独培養では分岐構造があっても数個にとどまるのに対し,2週間の培養で100以上の分岐を形成していた.また,分岐構造の形成の再現性が向上し,ほぼすべてのアストロサイトが分岐構造を形成した状態を再現的に得ることができるようになった.アストロサイトの異常が背後にある先天的・後天的な神経の異常は多数知られているが,アストロサイトは研究に必要なレベルの侵襲で炎症形態をとるようになるため,アストロサイトの状態をコントロールするための薬理評価系の構築は容易ではなかった.この培養系の持つ高度なアストロサイトの成熟とその再現性は,神経保護作用の評価だけではなく,神経系成熟に関わる分子の探索や薬理スクリーニングに用いることができる.
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今後の研究の推進方策 |
グルタミン酸トランスポーターとヒアルロン酸を骨格とする細胞外マトリクスペリニューロナルネットの関係については,細部を詰めてまとめ,投稿する. ラット大脳から高度に成熟した神経細胞・アストロサイトの混合培養系を構築できたことを受け,今後はこの系を用いて計画中の研究を進める.さらにこの培養系を生かして,アストロサイトの形態的成熟に関わる神経-アストロサイト相互作用などの解明も視野に入れて研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
現在投稿中の論文の査読に必要な研究費,掲載料の支出に対応する必要があるが,投稿が予定より遅れたため,その費用を繰り越した.今年度は研究計画に沿って研究と投稿を進めるとともに,本研究中にアストロサイトの形態成熟に関する想定外の発展がみられたため,その結果も論文にすることを予定している.
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