研究課題
グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性伝達物質であり、その過剰な作用は神経細胞死をひきおこす。グルタミン酸トランスポーターは興奮性シナプス に放出されたグルタミン酸を回収することによってシナプス伝達を終結させるとともに、過剰な興奮から神経細胞を守っており、その活性はヒアルロン酸の合成 に依存する。最終年度である三年目は本研究の成果である,ヒアルロン酸合成酵素とグルタミン酸トランスポーターの活性制御の関係についての論文投稿と査読対応を優先して行った.査読で,ヒアルロン酸分解酵素の特異性を明確にすることと,サンプル数および統計処理に関する意見があったので対照群を改善するなどして対応した.そしてJ.Neurochem.に掲載され,表紙を飾ることができた.並行して,グルタミン酸トランスポーターの発現,反応性アストロサイトの生成,神経細胞によるヒアルロン酸合成が神経伝達物質,炎症制御物質,サイトカイン類による制御を受けるかを評価した.これらの物質で24時間処理ののち固定し,神経細胞,ペリニューロナルネット,アストロサイトの各マーカーによる免疫染色を行った神経系初代培養細胞をハイスループット画像撮影装置で撮影し,発現量や形態を定量化した.単独で再現的に神経保護性を持ち,ペリニューロナルネットのシグナル増強やグルタミン酸トランスポーターの発現を増加させるような物質はなかった.そのような性質を持つ物質を広くスクリーニングするため,東大創薬機構の支援を得て条件最適化を行っている.
2: おおむね順調に進展している
本研究で得られた成果である,ペリニューロナルネットの骨格をなすヒアルロン酸の合成がグルタミン酸トランスポーターの活性を支え,興奮毒性から神経細胞を保護する働きを持つことを論文として公表することができた.さらに,ペリニューロナルネットの形成,神経細胞とアストロサイトの形態を指標として神経保護作用を持つ化合物をスクリーニングすることについて,東大創薬機構の支援を受け,条件検討を進めている.
ハイスループットで化合物スクリーニングを実施するためには,1個ないし数個のウェルでの評価で有効な化合物を検出できるようにする必要がある.そのためには,再現性が高く.感度の良い培養系を用意する必要があり,現状ではまだ基準に達していない.今後,培養条件をより安定なものにし,良い対照群を用意して,化合物スクリーニングを有効に行えるようにする必要がある.さらに,本研究で条件最適化を行った,神経系初代培養細胞において,アストロサイトが排他的な領域を形成するタイリング現象を示すことを並行して見出した.アストロサイトを緑色蛍光タンパク質で標識して経時観察に成功し,このタイリングはcontact mediated repulsionによることを示す結果を得た.この結果について投稿準備中である.
研究は順調に進行しており,これまでこの研究に関わる論文を2報発表した.現在3報目の投稿準備中で,共同研究者の修正待ちの段階である.査読対応を経ての成果発表が来年度になるため,延長が必要である.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Journal of Neurochemistry
巻: 150 ページ: 249-263
10.1111/jnc.14791