研究実績の概要 |
受容体型チロシンキナーゼ(RTK)は、自身の細胞内膜輸送を介してシグナル伝達を時空間的に制御している。その制御には多くの因子が複雑に関与しているため、全体像の理解には包括的なアプローチが必要である。一方、申請者は最近、細胞画像の蛍光シグナルから時空間的情報を含む多くの特徴を定量化し、数理解析によって分子機構を解明するシステムを構築した(Tanabe, Sci. Rep. 2016)。本法は高いスループットを持つため、siRNAライブラリーなどを用いたRTKシグナルの解明を進めている。 本研究では、RTKのプロトタイプであるEGF受容体に着目し、既知薬理活性化合物ライブラリーを用いた機能タンパク質阻害の影響を包括的に解析する。申請者が進めているsiRNAライブラリーの結果と統合することで、EGF受容体シグナル制御の全体像解明を目指す。 今年度は申請者が確立したシステムの検証を行った。本システムはハイコンテントスクリーニングと呼ばれる手法の一つで、画像解析から得られる多数の特徴量を用いて、化合物が細胞に与える影響を定量的に評価する。ライブラリーに含まれる化合物が細胞に与える影響は多様かつ予測困難なため、スクリーニングに最適な実験条件を事前に規定することは難しい。そこで申請者は、異なる実験条件が解析結果に与える影響を評価した。EGF受容体のリガンド7種類を用いて異なる実験条件を作成し、各条件で化合物の影響を評価した。その結果、ほぼ全てのリガンドで同一の結果が得られた。これらの結果は、申請者が作成したシステムの高いロバスト性を有していることを示唆している(Tanabe et al., SLAS Discov. 2018、Tanabe, Int. J. Mol. Sci. 2017)。
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