研究課題/領域番号 |
17K07349
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
米田 敦子 東京薬科大学, 生命科学部, 講師 (80590372)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 悪性黒色腫 / 薬剤耐性 / 糖鎖 / 脂質 |
研究実績の概要 |
悪性黒色腫は皮膚癌による死亡の 80% を占め、約半数の症例ではBRAF遺伝子に活性化変異がある。そのため悪性黒色腫患者ではBRAF阻害剤が奏功するが、すぐに薬剤耐性が生じる。我々は、BRAF阻害剤耐性ヒト悪性黒色腫細胞株と感受性株の比較により、細胞外マトリックス受容体インテグリンシグナルに関わる分子の糖鎖修飾に顕著な差を示唆する予備的結果と、特定の脂質が耐性株の細胞膜に多いことを示唆する予備的結果を得ていた。本研究では、BRAF阻害剤耐性悪性黒色腫の薬剤耐性に、細胞表面糖鎖の改変、細胞膜脂質の改変を介したインテグリン生存シグナルの制御が重要であるとの仮説を検証する。平成29年度は感受性株で高発現し、耐性株では低発現するインテグリンシグナル関連因子としてCD63を同定し、その糖鎖修飾が両細胞株で異なっていることを明らかにした。平成30年度は、CD63の発現量がヒト悪性黒色腫細胞の BRAF阻害剤耐性と逆相関することを示し、CD63の過剰発現や発現抑制により、細胞の接着・生存が制御されることを示唆する結果を得た。加えて、CD63の糖鎖合成に関わる酵素の遺伝子発現レベルが耐性株で亢進していること、当該酵素遺伝子の導入や発現抑制により細胞膜でのCD63の局在が変化することを明らかにした。細胞表面CD63の強制発現が細胞増殖を低下させた結果と合わせ、阻害剤処理によるCD63の糖鎖構造変化がCD63を細胞膜に局在させ、悪性黒色腫の増殖を低下させうることを示した。耐性株と感受性株の細胞膜での量が異なることが示唆された脂質の定量系を構築した。以上の結果の一部を学会で発表し、論文(査読付き)を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
6種のヒト悪性黒色腫細胞におけるCD63の発現量とBRAF阻害剤存在下での細胞増殖解析から、CD63の発現量とBRAF阻害剤耐性能が逆相関することを示す結果を得た。BRAF阻害剤に比較的耐性を示す細胞におけるCD63の過剰発現により阻害剤感受性の亢進、逆に感受性の高い細胞でのCD63の発現抑制により阻害剤耐性の亢進を示す結果を得た。増殖コロニーの数や大きさなどから、CD63が細胞の接着・生存・増殖に影響することを示唆する結果を得た。加えて、CD63の糖鎖合成に関わる酵素の遺伝子発現レベルが感受性株にくらべ、耐性株で亢進していること、当該酵素遺伝子の発現により、CD63の細胞膜での局在が増加することを明らかにした。細胞膜タンパク質との融合体として強制的にCD63を細胞表面に発現する細胞の増殖が対照に比べ低下した結果と合わせ、阻害剤処理によるCD63の糖鎖構造変化がCD63を細胞膜に局在させ、悪性黒色腫の増殖を低下させうることを示した。耐性株と感受性株で細胞膜での量が異なることが示唆された脂質を、当該脂質結合タンパク質に基づくプローブを作成し、定量できる系を構築した。また、細胞応答における当該脂質の機能を探索するため、阻害試薬を構築した。以上のことより、実施計画と目標は概ね順調に達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
耐性株と感受性株で細胞膜での量が異なることが示唆された脂質の機能を阻害する試薬を用い、細胞接着、遊走などインテグリンを介した細胞応答への影響、細胞増殖、薬剤耐性への影響を調べる。また、当該脂質の量を増減させる培養条件の検討、増減に関わる分子の探索や作成を行う。耐性株の薬剤耐性に対する糖鎖改変と当該脂質量改変の累積的効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本年度の使用額はほぼ計画どおりであった。次年度使用額が生じた理由は、前年度に比較的安価な試薬を用いる実験が多かったことと、予定していたほどの委託解析を行わなかったためである。
(使用計画) 細胞培養、遺伝子導入、細胞染色など、細胞生物学、分子生物学、生化学実験に必要な費用、および成果の発表(論文、学会)にかかる費用を使用する予定である。
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