研究課題
一般にGタンパク質はGDP結合型で不活性状態、GTP結合型で活性化状態となり、いわゆる分子スイッチとして、様々な細胞応答を制御している。従って、細胞内のGタンパク質のグアニンヌクレオチド結合状態を正確にモニターすることは、その機能制御を解析する上で重要であり、これまで様々な手法によりその状態が解析されてきた。古典的には、生細胞を放射標識された無機リン酸で代謝ラベルした後にGタンパク質を免疫沈降し、それに結合したGDP/GTPをTLCにより解析する方法が行われる。最近では、活性化型特異的なモノクローナル抗体や、活性化型と相互作用するエフェクターのリコンビナントタンパク質を用いて、細胞抽出液から活性化型を捕捉してウエスタンブロットで解析する方法や、FRETプローブなどを用いた解析手法が開発されている。しかし、これらの方法はラジオアイソトープの使用や、適応できるGタンパク質が限定されているなど、汎用性の面などで課題が残る。そこで申請者は、どのようなGタンパク質にも適応可能で、簡便かつ定量的なGタンパク質のグアニンヌクレオチド型の解析手法の開発に着手した。そして昨年度の研究により、HPLCを用いた逆相イオンペアクロマトグラフィーを用いて、Gタンパク質に結合したGDP/GTPを定量できるアッセイ系を確立することができた。具体的には、Flagタグを付加した各種の低分子量Gタンパク質をドキシサイクリン依存的に誘導する細胞株を確立し、その細胞抽出液から抗Flag抗体で免疫沈降したGタンパク質に結合したGDP/GTPを定量できる測定系を確立した。この方法では、1 pmol以上のグアニンヌクレオチドが存在すれば十分に定量可能であり、必要な細胞量としては10 cm dishが2枚程度、解析に要する時間もこれまでの手法に比べるとかなり短いなど、様々な利点を有することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
Gタンパク質の種類によらず、それに結合したGDP/GTPを感度良く定量的に測定出来る実験系を確立できたことは、その活性化状態が解明できていないGタンパク質群の活性制御機構を解析する上で、非常に有用なツールになりうると考えられる。今回開発した実験系はHPLCを必要とするものの、ラジオアイソトープや特殊な試薬等は必要とせず、かなり短時間に解析を行える点でも、本手法の意義は大きいと思われる。
低分子量Gタンパク質群はヒトでは150種類以上知られているが、細胞内でのグアニンヌクレオチド型(活性化状態)が正確にモニターされている例はかなり限られている。今後はそのような未解明の低分子量Gタンパク質群の中でも、ARF/ARLサブファミリー分子群に焦点をあて、まずはそれらのグアニンヌクレオチド型が測定可能かを検証していく予定である。またそれと同時に、測定系のさらなる改善(免疫沈降効率の上昇など)も行っていく。
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