低分子量Gタンパク質はヒトでは約150種類存在し、一次構造上の特徴からRAS、RHO/RAC、RAB、ARF、RANの5つのサブファミリーに分類される。現在までにRASを初めとして生理的役割や活性制御機構に関して理解が進んでいる分子群もあるが、ゲノムデータベースを用いた一次構造情報から同定された低分子量Gタンパク質群については、機能や活性調節機構に関して未解明な点が多い。低分子量Gタンパク質RAC1は、細胞骨格制御などに関与するRHO/RACファミリー分子の一つであり、その遺伝子変異はメラノーマの発症に関与することが知られている。前年度の研究において申請者らは、共同研究によるNMRを用いた解析から、メラノーマ発症に関与するRAC1のアミノ酸変異が、どのようにしてRAC1を活性化型へと導くかに関する構造学的知見を得た。まずRAC1/P29S変異体では、グアニンヌクレオチド結合状態の維持に重要なマグネシウムイオンとの親和性が低下しており、それに起因したGDP/GTP交換反応の亢進が、RAC1を活性化状態になりやすくさせていることが明らかとなった。また、RAC1/N92Iでは分子全体としての立体構造が不安定化し、グアニンヌクレオチド解離に必要な活性化エネルギーが低下することでGDPが解離しやすくなり、それに伴うGDP/GTP交換反応の促進がRAC1活性化を引き起こすことが明らかとなった。以上の結果は、他の低分子量Gタンパク質の活性化機構を考察する上でも有用な知見になりうると考えられる。
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