研究課題/領域番号 |
17K07352
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
杉浦 信夫 愛知医科大学, 分子医科学研究所, 准教授 (90454420)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コンドロチン硫酸 / グリコサミノグリカン / GAG受容体 / PTPRσ / ナノ粒子 / マラリア / VAR2CSA |
研究実績の概要 |
酸性多糖体コンドロイチン硫酸(CS)およびヘパラン硫酸(HS)はグリコサミノグリカン(GAG)と呼ばれ,生体内ではコアタンパク質と結合したプロテオグリカンとして存在している。神経損傷や病原体感染に関与するなど,GAG結合分子(受容体)を介してさまざまな生理機能を発揮している。本研究者は,その生理機能はそれらGAG結合分子に特異的な親和性を持つ特定の糖鎖構造に由来すると考え,明確な構造を有する人工糖鎖を酵素化学的に合成して,各種GAG結合性分子との親和性を解析している。 本研究は,代表者が構築した合成CS/HS糖鎖ライブラリーを使って,GAG結合分子との相互作用を解析することである。具体的には,(1) 神経細胞のGAG受容体の一つである受容体型タンパク質チロシンホスファターゼ シグマ(PTPRσ)の組換えタンパク質を調製し,アビジンコートチップに固相化したビオチン標識酵素合成CS/HSライブラリーとの親和性を表面プラズモン測定装置(SPR,ビアコア)で解析することで,PTPRσがE構造を持つCS糖鎖やヘパリン様糖鎖に強い親和性を持つことを示した。(2) 細胞表面のGAG結合分子(受容体)とCS/HSライブラリーとの相互作用を解析するために,内在性のGAG産生を遺伝子編集的手法で抑制した細胞を樹立した。(3) 得られたGAG産生抑制細胞に受容体タンパク質PTPRσを強制発現させ,蛍光標識糖鎖ライブラリーとの相互作用を蛍光顕微鏡で解析した。(4) マラリア原虫が産生しその感染赤血球表面にあらわれるCS結合性膜タンパク質VAR2CSAとの高い親和性をもつCSA誘導体を合成した。医薬品開発を目指して,CSA誘導体とタンパク質あるいは脂質との複合体形成による,コロイド状あるいはリポソーム状のナノ粒子の調製を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 神経細胞のCS受容体PTPRσの組換えタンパク質をもちいて,固相化CS/HSライブラリーとの親和性をSPRで解析した。PTPRσはCSE含有糖鎖およびヘパリン様糖鎖にきわだって強い親和性を持ち,神経細胞の軸索伸展に対しCSEは阻害効果,ヘパリンは促進効果を示した。 (2) プロテオグリカンとしてコアタンパク質に糖鎖が結合する最初の反応を触媒するのはキシロース転移酵素(Xyl-T)である。細胞内在性のCS/HS産生を欠失させるために,xyl-t遺伝子を遺伝子編集CRISPR/Cas9システムで欠損させた。結果として,野生型に比べ数%までにGAG産生が減少した変異細胞株が得られた。 (3) 得られたGAG産生抑制細胞に受容体タンパク質PTPRσの遺伝子を含む発現プラスミドを導入し,細胞膜表面に組換えPTPRσが発現したことを抗体染色で確認した。そのPTPRσ産生細胞への蛍光標識CS/HS糖鎖の結合を蛍光顕微鏡で解析して,蛍光標識ヘパリンに強い細胞表面結合性があることを見出した。 (4) CS糖鎖ライブラリーをもちいて,タンパク質あるいは脂質との複合体を形成させ,コロイド状あるいはリポソーム状のナノ粒子の調製を試みている。タンパク質としては,塩基性のプロタミンを選択してGAG糖鎖との複合体作製を行った。ヘパリンや高硫酸化長鎖CS糖鎖とプロタミンとのナノ粒子複合体の調製は成功した。しかし,マラリアタンパク質VAR2CSAに強い親和性を示すCSAオリゴ糖(二十糖)との安定なナノ粒子状の複合体は調製困難であった。つぎに,脂質(脂肪酸あるいはリン脂質)を共有結合したCSAを合成し,リン脂質やコレステロール混合物からなるリポソームに脂質結合CSAを取り込むことによるCSA含有ナノ粒子(リポソーム型)の調製を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) CSA糖鎖含有ナノ粒子の調製は,リン脂質を用いたリポソーム型を中心に進める。目的とする生体内投与に適した直径100 nm程度の安定なCSA糖鎖含有ナノ粒子(リポソーム)の作製に努める。作製したCSA糖鎖含有ナノ粒子とマラリア膜タンパク質VAR2CSAとの親和性を測定し,遊離CSAと比較する。VAR2CSAのCSプロテオグリカンとの結合を,遊離CSAよりも強く阻害する活性をもつCSA含有ナノ粒子の調製を第1の目標とする。ついで,抗マラリア剤(メフロキンなど)を封入したCSAナノ粒子を調製し,感染赤血球内のマラリア原虫への攻撃作用を解析し,遊離抗マラリア剤と比較する。この基盤研究をさらに進め,マラリア感染症治療薬開発への礎とする。 (2) GAG受容体PTPRσは中枢神経系のみならず,筋シナプス接合など末梢神経系や自己免疫疾患などの免疫系においても重要な役割を担っていることが最近わかってきた。これら末梢のPTPRσ 受容体にもCSやHSが機能調節に働いていると考えられる。たとえば,末梢神経細胞株のPTPRσ発現を調べ,もし発現が少なければ組換えPTPRσタンパク質を強制発現させる。神経細胞表面のPTPRσとCS/HS糖鎖ライブラリーとの相互作用を調べ,筋シナプス形成への影響を解析する。あるいは,免疫系細胞のPTPRσ発現状況を調べ,高発現細胞とCS/HS糖鎖ライブラリーとの相互作用および免役機能(抗原提示機能,貪食機能,ケモカイン等の分泌機能,抗体分泌機能など)や自己免疫疾患との関連を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用残額は,次年度の物品費(消耗品)として使用する。
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