研究課題/領域番号 |
17K07352
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
杉浦 信夫 愛知医科大学, 分子医科学研究所, 客員研究員 (90454420)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コンドロイチン硫酸 / グリコサミノグリカン / 熱帯熱マラリア / 妊娠マラリア / VAR2CSA / リポソーム / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
コンドロイチン硫酸(CS)などのグリコサミノグリカン(GAG)は,分子量数万に及ぶ長鎖多糖体であり複雑な硫酸基修飾を受けており,生体内ではコアタンパク質と結合したプロテオグリカンとして存在している。GAG糖鎖はその特異な構造によって, 生体内のGAG結合分子を介して,神経損傷や病原体感染など,さまざまな生理作用に関与している。それらの生理作用は,それぞれの結合分子に特異的な親和性を示す特定のGAG糖鎖構造に由来すると考えられる。そこで本研究者らは,遺伝子組換え GAG合成酵素群と化学修飾を駆使して,多様な構造をもつ人工合成GAG糖鎖ライブラリーを構築して,各種GAG結合性分子との親和性を解析してきた。 その1つとして,妊婦が感染する熱帯熱マラリアとCS糖鎖に関する研究を行っている。体内に侵入したマラリア原虫は赤血球に感染し,胎盤に潜伏することで,患者の病態を悪化させていることが知られている(妊娠マラリア)。これは,感染赤血球表面に出現したマラリア原虫産生タンパク質VAR2CSAが,胎盤絨毛細胞表面のCSプロテオグリカン と結合するためである。本研究者らは,このVAR2CSAタンパク質と高い親和性を示すCS構造を,人工合成CS糖鎖ライブラリーによって特定した。 このCS糖鎖を利用して,特異性の高いマラリア治療薬の開発が可能であるとの考えに至った。すなわち,マラリアタンパク質VAR2CSAへの高い親和性を示すCS糖鎖を,化学的にリン脂質と結合させた。別途作製した低分子抗マラリア剤を封入したリポソームに,そのCS-脂質複合体を取り込むことで,CS鎖を表面に持つ抗マラリア剤含有リポソームを調製した。このリポソーム形態のナノ粒子製剤は安定で,マラリアタンパク質に極めて強い結合性を示すことを見出した。このナノ粒子製剤を用いて,実際のマラリア原虫への攻撃作用の検討を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マラリアタンパク質VAR2CSAと親和性の高い CS糖鎖の還元末端に,リン脂質ホスファチジルエタノールアミン(PE)を共有結合させて,CS-脂質複合体(CS-PE)を化学合成した。特定の脂質成分を組み合わせ,リポソーム内外の緩衝液組成を変化させて,平均粒径100 nm のリポソームを作製した。このリポソームに低分子抗マラリア剤を添加・インキュベートすることで,抗マラリア剤封入リポソームをつくり,さらに上記合成CS-PE複合体を処理して,CS糖鎖を表面にもつ抗マラリア剤封入リポソームを作製した。作製条件を変化させて得られた抗マラリア剤含有のCS-リポソームの粒径変化や安定性,CSや抗マラリア剤の含有量の変化を計測し,生体内投与に適した粒径約100 nmの安定なナノ粒子の作製方法を確立した。このCS-リポソーム製剤は,マラリアタンパク質VAR2CSAと極めて高い親和性を示し,固相化CSとVAR2CSAの結合阻害活性も遊離CSよりも数百倍強力な作用を示した。 このナノ粒子製剤の抗マラリア感染阻害作用を探求するために,外部の寄生虫学専門の研究者との共同研究を開始した。妊娠マラリアに対応するマラリア原虫株を取得し, CSA糖鎖に対する親和性の高い原虫株を選別・培養し,その選択株がVAR2CSA産生能を有することをPCRで確認した。このマラリア原虫株と作製したCS-リポソーム製剤を用いて,抗マラリア関せ塩素外作用を確認する予備実験まで完了した。ところが,最近の新型コロナ感染の騒動で,外部研究機関に直接伺い実験することは難しくなり,実験に協力する予定の外国人研究者の入国も困難になったために,原虫株を使った実験は中断している。
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今後の研究の推進方策 |
抗マラリア剤を封入したリポソームにCS-PE複合体を処理することで,抗マラリア作用が期待できるCS含有ナノ粒子製剤の基本設計は完了した。調製したCS-リポソーム製剤は,生体内投与に適した粒径約100 nmの安定なナノ粒子で,マラリア原虫が産生する膜タンパク質VAR2CSAに対し高い親和性を示し,固相化CSとVAR2CSAとの結合阻害活性もきわめて強力な作用を示した。リポソーム本体を蛍光標識する手法も確立し,培養細胞や生体内でのCS-リポソームの動態を追跡する手段も得られた。外部研究機関との共同研究により,妊娠マラリアの病原株であるマラリア原虫株が入手でき,その元株を固相化CS培養皿によるパニング操作により,CS結合性のVAR2CSA発現原虫株が樹立できた。調製した抗マラリア剤封入CS-リポソーム製剤を持ち込み,共同研究先で樹立した培養マラリア原虫株に投与することで,マラリア原虫への感染阻害作用を解析する方策である。 調製した抗マラリア剤封入CS-リポソーム製剤の感染阻害作用が遊離抗マラリア剤と比較して,より微量で特異的な抗マラリア感染阻害作用を示せば,画期的な妊娠マラリア治療薬の開発基盤となり得る。ただ,前述のように最近の新型コロナ感染の騒動で,外部研究機関に直接伺い実験することは難しくなり,実験に協力する予定の外国人研究者の入国も困難になったために,原虫株を使った実験は中断しており,現在はコロナ感染の鎮静を待っている。鎮静すれば,調製した抗マラリア剤封入CS-リポソームを携え,共同研究先で選別したマラリア原虫株を用いた抗マラリア作用の測定実験を実施する計画である。
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