マラリアタンパク質VAR2CSAと親和性の高い CS糖鎖の還元末端に,ホスファチジルエタノールアミン(PE)を共有結合させて,CS-リン脂質複合体(CS-PE)を調製した。特定の脂質成分を組み合わせ,リポソーム内外の緩衝液組成を変化させて,平均粒径100 nm のリポソームを作製した。このリポソームに低分子抗マラリア剤を添加・インキュベートすることで,抗マラリア剤封入リポソームをつくり,さらに上記合成CS-PE複合体を取り込ませて,CS糖鎖を表面にもつ抗マラリア剤封入リポソームを作製した。作製条件を変化させて得られた抗マラリア剤含有のCS-リポソームの粒径変化や安定性,CSや抗マラリア剤の含有量の変化を計測し,生体内投与に適した粒径約100 nmのナノ粒子の作製方法を確立し,その長期安定性も確認した。このCS-リポソーム製剤は,マラリアタンパク質VAR2CSAと極めて高い親和性を示し,固相化CSとVAR2CSAの結合阻害活性も遊離CSよりも数百倍強力な作用を示した。 このナノ粒子製剤の抗マラリア感染阻害作用を探求するために,外部の寄生虫学専門の研究者との共同研究を開始した。妊娠マラリアに対応するマラリア原虫株を取得し, CSA糖鎖に対する親和性の高い原虫株を選別・培養し,その選択株がVAR2CSA産生能を有することをPCRで確認した。このマラリア原虫株と作製したCS-リポソーム製剤を用いて,抗マラリア関せ塩素外作用を確認する予備実験まで完了した。ところが,最近の新型コロナ禍により実験に協力する予定の外国人研究者の入国も困難になったために,原虫株を使った実験は中断となった。次善の策としてVAR2CSAを細胞表面に出現させる強制発現ヒト細胞を作製し,この細胞とCS-リポソームとの相互作用を解析することで,CS-リポソームの有効性を推察することした。
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