研究実績の概要 |
硫酸化糖鎖は発生過程や成熟後の細胞機能の制御や恒常性の維持において多彩な機能を発揮する重要な分子であり, 硫酸化糖鎖の機能はその構造多様性を基盤とする.発生プログラムの制御下あるいは環境からの刺激を受け,その時・その場に適した糖鎖構造が合成され細胞機能が制御されると考えられているが, 状況に応じて糖鎖構造が制御される仕組みの詳細は不明である. また, このような生合成制御機構の破綻は細胞機能の異常を引き起こし, 種々の疾患と関連することが予想される. 本研究では以下の2点を明らかにした. ①細胞内外の状況(特に糖鎖の合成状況)を反映し, 場面に応じた糖鎖構造を合成する制御機構の存在を明らかにするとともに, 糖鎖合成制御機構の生理的意義を示す. プロテオグリカンの合成が活発になるほどゴルジ体ストレス応答は活性化した. また, 神経新生の時期にゴルジ体ストレス応答が活性化し, ゴルジ体ストレス応答の鍵転写因子をノックダウンすると神経新生が遅延することがわかった. ある硫酸化糖鎖合成酵素遺伝子をノックアウトした細胞では, 別の合成酵素遺伝子の発現が特異的かつ顕著に変化していた(糖鎖合成状況に応答した糖鎖合成遺伝子の発現調節機構の存在). ②糖鎖構造の合成制御機構を作動させる低分子化合物の探索を行う. 糖鎖合成制御機構を動かす候補転写因子を活性化する化合物をスクリーニングし, この化合物が神経幹細胞から神経細胞への分化を促進することを明らかにした. また, 神経再生時に軸索伸長のバリアとなる硫酸化糖鎖の合成において重要な役割を果たす鍵酵素の発現を抑制する化合物を見出した. 軸索伸長のバリアとなる硫酸化糖鎖は主にアストロサイトで合成されるが, 化合物でアストロサイトを処理すると, 軸索伸長阻害活性が低い硫酸化糖鎖を合成するようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①細胞内外の状況(特に糖鎖の合成状況)を反映し, 場面に応じた糖鎖構造を合成する制御機構の存在を明らかにするとともに, 糖鎖合成制御機構の生理的意義を示すこと, ②糖鎖構造の合成制御機構を作動させる低分子化合物の探索を行うために, 予定していた実験はほぼ終了し, ポジティブな結果が得られた. 論文として発表するための前段階まで到達したと考えられるため, おおむね順調に進展していると判断した。
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