研究実績の概要 |
本研究課題は、コンドロイチン硫酸糖鎖によるオリゴデンドロサイトの分化・成熟、ミエリン化の調節機構の解明を目的としている。PTPRZは、その細胞外領域がコンドロイチン硫酸糖鎖によって修飾されているユニークな受容体型タンパク質チロシン脱リン酸化酵素(RPTP)である。これまでに我々は、PTPRZがオリゴデンドロサイトの分化、ミエリン化、および再ミエリン化に対して抑制的に機能していること、PTPRZの細胞外コンドロイチン硫酸糖鎖はその脱リン酸化酵素活性の維持に関わっていること、また、PTPRZのコンドロイチン硫酸糖鎖を酵素的に除去することによってオリゴデンドロサイトの分化が促進することなどを見出してきた(Kuboyama et al., Plos One 7: e48797, 2012; Kuboyama et al., J Neurosci 35: 12162-12171, 2015; Kuboyama et al., J Biol Chem 291: 18117-18128, 2016)。これらの知見を基に、当該年度では、コンドロイチン硫酸糖鎖に作用し、PTPRZによるオリゴデンドロサイトの分化抑制作用を解除する分子の探索に着手した。我々が独自に開発した不死化オリゴデンドロサイト系譜細胞であるOL1細胞とアグリカンによる脱髄病巣の再現培養アッセイ系を用いた検討から、プロタミンと呼ばれるペプチド分子を見出した。プロタミンは細胞外アグリカン、およびPTPRZと結合し、PTPRZの会合(2量体化)を促進し、その酵素活性を抑制し、オリゴデンドロサイトの分化を促進している作用機序も見出された。さらに、クプリゾン誘導性脱髄病態モデル動物にプロタミンを側脳室内投与することによって、明らかな再ミエリン化の促進が観察された。
|