研究課題
哺乳動物細胞のスフィンゴ糖脂質の生合成酵素はほぼ同定されている。しかし細胞内輸送因子に関しては未解明な点があり、その中で最も解明が注目されている輸送として、グルコシルセラミド (GlcCer) の脂質二重膜を横切る輸送(フリップフロップ機構)が挙げられる。GlcCerは合成酵素によって主にゴルジ体の細胞質側で生合成される。続いて生合成されるラクトシルセラミド (LacCer) の合成酵素はゴルジ体内腔側に活性部位を有しているため、GlcCerは細胞質側から内腔側へフロップする必要がある。本研究は、この未解明である糖脂質生合成に必須であるGlcCerのフロップ機構に関与する因子の同定を目的とする。H29年度は1. 以前行った糖脂質代謝関連因子のゲノムワイドスクリーニングで同定した遺伝子群からの探索、2. 新たなフロッパーゼ探索法として遺伝子発現増強型ゲノムワイドスクリーニング法の導入、3. GlcCer合成酵素に関連のある遺伝子の破壊株作製とこれを用いた糖脂質解析、の3方向より研究を遂行した。
2: おおむね順調に進展している
H29年度はフロッパーゼ探索法に関して、3方向よりアプローチを行い以下の結果を得た。1.以前行った糖脂質代謝関連因子のゲノムワイドスクリーニングで同定された遺伝子の中に、ノックアウトでGlcCerが蓄積しLacCerが減少するような糖脂質パターンを示すものがあるか検討した。GlcCerとLacCerの両者が蓄積するようなパターンはあるものの、残念ながらGlcCerのみ蓄積するような細胞は見られなかった。2. 新たな探索方法として遺伝子発現増強型ゲノムワイドスクリーニング法の構築を行った。3. GlcCer合成酵素との結合が知られているReticulonファミリーのうちHeLa細胞に発現しているReticulon3及び4の二重破壊株を作製し、糖脂質生合成に影響を及ぼすか検討したが、親株と比較し目立った変化は見られなかった。1と3に関しては結果がnegativeではあったが、2に関しては徐々に進行している。今後は2を中心に、アッセイ系及びスクリーニング系の構築を行う予定である。
H30年度は以下のアプローチをとる。1. 遺伝子発現増強型ゲノムワイドスクリーニング法を用いて、糖脂質の生合成が増強する因子の探索を行う。志賀毒素結合を指標にFACSでソーティングを行い、濃縮されてくる遺伝子を同定する。2. 糖脂質の生合成は様々な代謝経路が関与するため、脂質ラベルの効率がよくない。そこでGlcCerからLacCerのステップに特化して追跡できるように、スフィンゴミエリン合成酵素1及び2、ガラクトシルセラミド合成酵素、及びGb3合成酵素を破壊した細胞を作製し、蛍光及び放射性のセラミドやGlcCerのパルスラベルによるLacCerへの生合成ステップの評価が見易い系を構築する。この細胞を使用し、GlcCerからLacCerへの生合成ステップにおけるATPやCaイオンの依存性について検討する。
H29年度次世代シークエンサーを用いる計画にしていたが行わず、キット代、大量の細胞培養に用いる血清代等の使用を見送ったため、次年度使用額が生じた。H30年度は、通常の分子生物学的試薬、細胞培養試薬の他、次世代シークエンサー用の試薬、放射性物質の購入が必要となるため生化学用試薬等の購入を計画している。また学会参加に関しては国内1回、海外1回の予定である。
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Biochimica et Biophysica Acta
巻: 1862 ページ: 991-1000
doi: 10.1016/j.bbalip.2017.06.011