研究課題/領域番号 |
17K07357
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
山地 俊之 国立感染症研究所, 細胞化学部, 室長 (50332309)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 糖脂質 / ゲノム編集 / スクリーニング |
研究実績の概要 |
哺乳動物細胞のスフィンゴ糖脂質の生合成酵素はほぼ同定されている。しかし細胞内輸送因子に関しては未解明な点があり、その中の1つとして、グルコシルセラミド (GlcCer) の脂質二重膜を横切る輸送(フリップフロップ機構)が挙げられる。GlcCerは合成酵素によって主にゴルジ体の細胞質側で生合成される。続いて生合成されるラクトシルセラミド (LacCer) の合成酵素はゴルジ体内腔側に活性部位を有しているため、GlcCerは細胞質側から内腔側へフロップする必要がある。 本研究は、この未解明であるGlcCerのフロップ機構に関与する因子の同定を最終目標とする。そのための手段として、CRISPRライブラリー等を用いて糖脂質生合成に関与する因子をゲノムワイドスクリーニングで探索し、その中から目的遺伝子の同定を試みる。当初の計画で考えていたスクリーニング方法は残念ながら頓挫したが、R1年度はその方法に代わるスクリーニング法を模索し、糖脂質代謝関連因子の探索に使用できる新たな親株を樹立した。これを含めR1年度は、(1)上記の細胞を用いた新たなスクリーニング、(2) GlcCerからLacCerの生合成代謝が見やすい遺伝子改変細胞の樹立、(3)糖脂質プロファイルの異なる細胞におけるトランスクリプトームによる比較解析、(4)以前同定した糖脂質代謝に影響する因子LAPTM4Aに対するペプチド抗体の作製、を遂行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初考えていたスクリーニング方法は以前頓挫したものの、今回新たなスクリーニングを構築することで、リカバーしつつある。具体的に糖脂質生合成に関与する因子に関して以下の解析を行った。 (1) 以前のスクリーニングで同定出来なかった糖脂質代謝関連因子を同定するため、スフィンゴ脂質改変細胞を用いた新たなスクリーニング系を構築した。志賀毒素の処理条件を検討した上で、糖脂質の発現量に変化を及ぼす遺伝子群を改めてCRISPRライブラリーを用いてスクリーニングした。 (2) GlcCerからLacCerの生合成ステップに特化して追跡できるように、上記のスフィンゴミエリン合成酵素1及び2の二重破壊株に、Gb3合成酵素を破壊した三重破壊株細胞を作製した。 (3) GlcCerの発現量(過剰発現及びKO)により、スフィンゴ脂質関連遺伝子が変動することを想定して、GlcCerの発現を変化させた複数の細胞群のトランスクリプトーム解析を行った。 (4) 以前ゲノムワイドスクリーニングで同定した糖脂質代謝関連因子群(TM9SF2やLAPTM4A等)のさらなる解析を行うため、これらに対するペプチド抗体を作製した。TM9SF2に対してはウエスタンブロットで特異的なシグナルを得ることは出来なかったが、LAPTM4Aに対してはウエスタンブロットに使用できる抗体を得た。
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今後の研究の推進方策 |
R2年度は以下の研究を行う。 1. 上記(1)のスクリーニングの続きを行う。次世代シークエンサー解析を行い、以前に行ったスクリーニング結果と比較する。新規に同定された糖脂質関連遺伝子候補に関して、KO細胞を作製し、糖脂質代謝への影響を検討する。もしGlcCerからLacCerへの生合成ステップに関与している可能性がある場合、(2)の細胞と蛍光脂質を用いてLacCerの生合成に関係するか、それともGlcCerの輸送に関与しているかを検討する。他のステップに影響している場合、それぞれの代謝酵素がどのように影響を受けているか(細胞内分布や発現量)検討する。 2. 一方上記 (3)のトランスクリプトームの解析の続きを行う。GlcCer量の変動によって影響していそうなmRNAを選択し、それぞれ実際変化しているか確認する。その中に過剰発現あるいは発現抑制によりスフィンゴ脂質の代謝に影響するか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた遺伝子探索のためのスクリーニング法の構築が成功しなかったため、その後別のアプローチで本研究 課題を遂行しているものの、想定していた期間にまとめることが困難となった。現在進行している本研究課題をまとめ るにあたり期間延長を申請したため、2020年度に使用する額を残した。 R2年度は、通常の分子生物学的試薬、細胞培養試薬の他、パルスラベル用放射性物質の購入が必要となるため生化学用試薬等の購入を計画している。また学会参加に関しては国内2回、海外1回の予定である。
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