研究課題/領域番号 |
17K07358
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
小亀 浩市 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (40270730)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞内タンパク質分解 / 小胞体関連分解 / 小胞体ストレス / タンパク質品質管理 / 低酸素 |
研究実績の概要 |
細胞内に生じた構造異常タンパク質は細胞機能の維持に対して脅威となるため、細胞は異常タンパク質に対処する仕組みを備えている。特に小胞体に蓄積した構造異常タンパク質を積極的に除去する仕組みを、小胞体関連タンパク質分解(ER-associated protein degradation; ERAD)と呼ぶ。我々は、ERADで働く小胞体膜タンパク質Herp、Derlin-1、Derlin-3の欠損マウスを作製し、それらの表現型を解析している。最近、HerpおよびDerlin-3欠損マウスが慢性低酸素負荷によって顕著な脆弱性を示すことを見出した。本研究では、その原因を細胞レベルおよび個体レベルで探求することで、ERADの生理的な重要性を明らかにし、さらにその基盤となる分子メカニズムを解明する。平成29年度は、低酸素ストレスに対して脆弱性を示すDerlin-3欠損マウスおよびHerp欠損マウスを利用して、それらの脆弱性につながる原因を探る解析を実施した。具体的には、慢性低酸素ストレスに晒したマウス個体から臓器等を採取し、野生型マウスの臓器との違いに注目した組織解析を進めた。その結果、両欠損マウスで心臓における血栓形成および線維化亢進が観察された。血液のヘマトクリット値には野生型と差がなかったことから、Derlin-3欠損マウスおよびHerp欠損マウスでは低酸素ストレスに対する心機能の適応能力が低下し、心房あるいは心室内で血流のうっ滞などが起きた可能性が推測された。また、体重推移に異常があったことから、全身性の適応不全の可能性も考慮する必要が生じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低酸素ストレスに晒された野生型マウス、Derlin-3欠損マウス、Herp欠損マウスから心臓や肺等を採取し、組織切片の解析をおこなった。その結果、両欠損マウスで心臓における血栓形成および線維化亢進が観察された。Derlin-3欠損マウスでは、心室に加え右心房においても病的血栓が観察された。血液のヘマトクリット値や、心肥大の程度、左室右室重量比には、マウス群間で大きな差は見られなかったため、血栓形成の原因として、心機能自体の低酸素への適応が正常に起こらず、心臓内での血流のうっ滞などが起きたと推測された。低酸素下での体重推移については、実験実施毎に程度のばらつきはあるものの野生型との差が見られ、特に低酸素飼育開始後1週間の体重減少は欠損マウスで顕著になる傾向が見られた。以上の結果より、慢性低酸素負荷で脆弱性を示す原因として、低酸素への心臓の適応不全が一因にあると考えられた。また、体重の推移にも差が見られたことから、全身性の適応不全や消化異常等に起因する代謝異常の可能性も生じた。今後の研究の方向性を考える上で重要な結果が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の解析で得られた、低酸素状態下でのDerlin-3欠損およびHerp欠損の脆弱性の原因を探るべく、心機能異常だけでなく心臓以外の機能異常の観点からも解析を進める。低酸素下でのDerlin-3欠損マウスやHerp欠損マウスの心臓で観察された血栓や線維化が通常飼育条件下でも見られるのか、それとも低酸素ストレスに晒されたことにより初めて出現したものかを見極めるための心機能評価をおこなう。これにはMRIを利用する予定である。心臓以外の機能異常の解析対象候補として、ERAD因子が高発現を示し、かつDerlin-3が恒常的に高発現していることがわかっている唯一の臓器である膵臓に着目する。膵臓における機能異常、つまり消化酵素の分泌不全やインスリン分泌不全等による代謝異常による影響を想定している。まず、代謝異常の存在を解析するため、マウスの血液を用いた生化学的検査をおこなってスクリーニングする。膵臓におけるERAD因子群の挙動にも注目した解析をおこなう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に要する試薬や消耗品等の節約が功を奏し、当初の予定より少ない費用で研究計画を実施することができた。次年度はマウスの飼育費等に計画当初の想定以上の費用がかかることが予想されるため、本年度の節約分を次年度に合わせて使用する予定である。
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