細胞内に生じた構造異常タンパク質は細胞機能の維持に対して脅威となるため、細胞は異常タンパク質に対処する仕組みを備えている。特に小胞体に蓄積した構造異常タンパク質を積極的に除去する仕組みを、小胞体関連タンパク質分解(ER-associated protein degradation; ERAD)と呼ぶ。我々は、ERADで働く小胞体膜タンパク質Herp、Derlin-1、Derlin-3の欠損マウスを作製し、それらの表現型を解析している。その中で、HerpおよびDerlin-3欠損マウスが慢性低酸素負荷によって顕著な脆弱性を示すことを見出した。その原因として、Derlin-3欠損マウスおよびHerp欠損マウスでは低酸素ストレスに対する心機能の適応能力が低下する可能性と、全身性の適応不全が起こる可能性を示す結果を得た。低酸素下で観察された心機能異常が通常飼育条件下でも見られるのか否かを見極めるため、MRI等による心機能評価をおこなった結果、これらのマウスは通常飼育条件下においても収縮不全によって左室駆出率が低下していることが分かった。心機能異常の原因として知られる糖代謝異常については野生型との差が見られなかったため、心臓以外に原因がある可能性を考え、代謝異常などの解析にも着手した。代謝異常の存在を解析するため、マウスの血液を用いた生化学的検査でスクリーニングをおこなった結果、Derlin-3欠損マウスにおいて脂質代謝に異常がある可能性が見出されたため、現在、その機序の解明を進めている。さらに、Derlin-3が恒常的に高発現する膵臓と、小胞体ストレス負荷により強く発現誘導される肝臓を用いて、ERAD因子群の相互作用解析をおこなった結果、小胞体ストレスに応じたERAD複合体の構成変化にDerlin-3がスイッチ分子的な機能をもつことを見出した。このERADシステムの切り替えが、生体において小胞体ストレスに適切に対処するために必要なのではないかと考えられる。
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