研究課題
タンパク質分解は生命活動にとって重要な役割を担っている。一方、生命科学分野の研究において、特異性の高いプロテアーゼは、in vivoとin vitroの両面で利用されてきた。また、その中には将来の医療現場での活用の可能性も期待されているものもある。ところが、自然界に存在するプロテアーゼは、基質認識部位の中に触媒部位を含むため、その利用には限界がある。そこで、本研究では、基質認識部位と触媒部位とが完全に分離したプロテアーゼの創製を目的として研究を行っている。平成30年度は、これまでの研究で申請者が見出したプロトタイプとなる変異Pin1に対して、触媒部位の最適化を行った。これまでの解析から、変異Pin1の触媒部位には、セリンプロテアーゼに特徴的な触媒3残基が存在することを見出している。しかし、現状の配置は最適とは言い難く、その活性は天然のプロテアーゼに比べて低い。そこで、本年度は、プロテアーゼ活性の最適化を目的として、触媒部位に対するアミノ酸残基の置換変異の導入をおこなった。変異に伴うプロテアーゼ活性変化の測定には、平成29年度の研究で用いたスクリーニング系を適用し、変異Pin1と親和性の高い配列をもつ基質アミノ酸配列を用いて、触媒部位の最適化を行った。また、変異にともないPin1のプロテアーゼ活性が発現する原因を解明するために、分子動力学シミュレーションを行い、野生型と変異型のPin1のダイナミスクの違いを解析した。その結果、Pin1は変異にともない、基質結合部位のダイナミスクが著しく制限されるとともに、プロテアーゼ触媒に関わる3残基の配置が安定化することが明らかになった。これらの成果は、将来の商品化の対象としての展開に向けた前進をもたらした。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度は、これまでの研究で申請者が見出したプロトタイプとなる変異Pin1に対して、触媒部位の最適化を行った。これまでの解析から、変異Pin1の触媒部位には、セリンプロテアーゼに特徴的な触媒3残基が存在することを見出している。しかし、現状の配置は最適とは言い難く、その活性は天然のプロテアーゼに比べて低い。そこで、本年度は、プロテアーゼ活性の最適化を目的として、触媒部位に対するアミノ酸残基の置換変異の導入をおこなった。変異に伴うプロテアーゼ活性変化の測定には、平成29年度の研究で用いたスクリーニング系を適用し、変異Pin1と親和性の高い配列をもつ基質アミノ酸配列を用いて、触媒部位の最適化を行った。一方、平成29年度の研究から基質の必須条件が露出したPro残基だけであることが解明されたので、Pin1自身に対する自己切断を避けるために、Pin1が有する7つのPro残基を全てAlaに置換する変異も導入した。この結果、Pin1の自己切断の消失を達成することができた。また、変異にともないPin1のプロテアーゼ活性が発現する原因を解明するために、分子動力学シミュレーションを行い、野生型と変異型のPin1のダイナミスクの違いを解析した。その結果、Pin1は変異にともない、基質結合部位のダイナミスクが著しく制限されるとともに、プロテアーゼ触媒に関わる3残基の配置が安定化することが明らかになった。
最終年度は、さらに一歩進めて、変異Pin1由来のプロテアーゼのミクロ化を行う。プロテアーゼはタンパク質サイズが小さければ小さいほど立体障害を軽減することができ、攻撃可能な標的が多くなることが期待できる。そこで、本研究で創製したプロテアーゼのサイズを小さくすべく、プロテアーゼ活性部位とは遠位にあるN端側のドメインの削除を行う。また、それによって生じる熱力学的不安定性を、C端側ドメインへの変異導入により改善する。ここで問題としている熱力学的安定性は、プロテアーゼ活性にも反映することが予想されるので、その評価系として、本研究の当初から用いているスクリーニング系を用いる。このようにして、本研究では、100残基程度、すなわち、およそ12kDaの、基質結合部位と触媒部位とが独立したプロテアーゼの創製を完成する。
本研究で当初計画していた物品費の支出をキャンペーン時期に発注する等の工夫により抑えることができたため未使用額が発生したが,これは次年度以降の物品費に使用する。
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FEBS Letters
巻: 592 ページ: 3082-3091
10.1002/1873-3468.13218