研究課題/領域番号 |
17K07361
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 倫太郎 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (80563840)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | クリスタリン / 中性子散乱 |
研究実績の概要 |
本年は希薄濃度 (~1 mg/mL) におけるアルファクリスタリン (a-クリスタリン)を構成する二つのサブユニットであるaA-クリスタリンとaB-クリスタリンのサブユニット交換のkineticsを追跡するために時分割重水素化支援中性子散乱法により調べた。中性子散乱測定はオーストラリア原子力科学技術研究機構に設置されている小角中性子散乱分光器Quokkaを用いて37度にて行った。時分割散乱測定から得られた小角中性子散乱プロファイルに対してギニエ解析を行うことで、前方散乱強度 (I(0))の時間発展に注目した。軽水素化及び重水素化aB-クリスタリンからなるサブユニット交換 (ホモaB-クリスタリン)の交換速度と比較して、軽水素化aA-クリスタリンと重水素化aB-クリスタリンのサブユニット交換 (ヘテロa-クリスタリン)の交換速度は遅くなることが明らかとなった。 我々はヘテロa-クリスタリンにおけるサブユニット交換速度の遅さはaA-クリスタリン自身のサブユニット交換速度が遅いことに由来すると考え、そのアイデアを実証するために軽水素化及び重水素化aA-クリスタリンから構成されるホモaA-クリスタリンのサブユニット交換速度も同様に調べた。その結果、ホモaB-クリスタリンの交換速度と比較して、ホモaA-クリスタリンの交換速度は予測通り遅くなることが明らかとなった。現在、分析超遠心の結果とあわすことでヘテロa-クリスタリン、ホモa-クリスタリンにおけるサブユニット交換を理解する数理モデルを構築している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目においては主にヘテロa-クリスタリンとホモaB-クリスタリンの交換速度の差異を検討する予定であり、予想通り交換速度の違いを実験的に確認することに成功した。また、今までaA-クリスタリンの重水素化に成功していなかったが、今年度に精製法を工夫することででaA-クリスタリンの重水素化に初めて成功したため、ホモaA-クリスタリンの交換速度を評価できた。このホモaA, aB-クリスタリン、及びヘテロa-クリスタリンのサブユニット交換速度の相違の起源を明らかにすることでa-クリスタリンの長期安定性の謎を解明できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度においては1mg/mLと言った希薄系におけるa-クリスタリンのサブユニット交換に注目したが、実際の生体内における水晶体の蛋白質濃度は100-200 mg/mLと非常に高濃度系である。そのような高濃度系においては希薄系で通常無視できる排除体積効果や他の蛋白質などどの相互作用が必ずしも無視できないため、希薄系とは異なった構造・ダイナミクス・kineticsが予想される。そこで、今後は高度重水素化技術を駆使することで高濃度系におけるa-クリスタリンのサブユニット交換を調べ、希薄系との相違の起源を探る。 また、a-クリスタリンが機能を喪失し、白内障の起源となる起源としてa-クリスタリンの特定の残基における光学異性化が関与していると予測されている。そこで、光学異性化模倣a-クリスタリンをポイントミューテンションにより調整し、wild typeのa-クリスタリンとの差異を調べる。
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