研究課題
誘引物質を感知した遊走細胞が、前端でアクチン重合、後端でアクトミオシン収縮を起こして 誘引物質に向かうことはよく知られている。しかし、細胞が前方で受けた誘引物質のシグナルを 後端に伝達しミオシン II を集積させるメカニズムは現在も未解明である。近年ミオシン II がメカ ノシグナルに応答して集積することが分かってきた。“力”には物質としての実体がなく、棒の一端に加えられた“力”が他端に伝わるように、遠く離れた箇所にも伝達し得る。本研究では前端でアクチン重合によって生じた“力”が、張力として細胞膜上を後端まで伝わり、ミオシン II を集積させる(走化性メカノシグナル伝達仮説)という、化学シグナルによらない新しい独自の仮説を立て、これを実証する。本研究の成果は基礎生物学的な意義と同時に、人為的な“力”刺激によってがん細胞を集積・攻撃する技術など、将来の医科学応用も期待できる。我々は、細胞性粘菌アメーバが基質の硬さを感知し柔らかい方向に進む Rigidity sensing 機構を発見した。更に、ミオシンIIを欠損させた細胞性粘菌アメーバはこのRigidity sensing 機構を示さない事がわかった。われわれはこの Rigidity sensing メカニズムを使って、細胞はミオシンIIを集積するのではないかと考え、細胞性粘菌アメーバを柔らかい基質上、あるいは硬い基質上に這わせたときのアメーバ運動の様子をつぶさに観察した。すると両基質上での細胞性粘菌アメーバの形状変化が異なることを示唆するデータを得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
我々が細胞性粘菌アメーバや好中球様 HL-60 細胞株で発見したミオシンII依存の Rigidity sensing によって細胞がミオシンII を集積し形状を変化させることを期待できるデータを得ることができた。新型コロナウイルス感染症の蔓延により不可抗力的な研究の遅れが若干見られるものの、研究全体は概ね順調に進展している。
Rigidity sensing によって細胞性粘菌アメーバががミオシン II を集積し形状を変化させることを期待できるデータを得ることができたので、形状だけでなく運動の様子も変わるのか、ミオシン II がたしかに集積させるのかを検討する予定である。
本研究では細胞性粘菌アメーバを用いて、アメーバ運動における2型ミオシンの役割の解明を目指している。研究計画にない2型ミオシンの変異体が導入された粘菌アメーバの運動軌跡解析、2型ミオシン動態解析によって、2型ミオシンの役割がミオシンの分子レベルで明らかにできる可能性があることがわかった。そのため1年間期間を延長し、これらの解析に取り組み、より高い研究成果を目指す。具体的には、GFP-myosin II やその変異体が発現した細胞の遊走を記録し、GFPの局在や細胞の形態を解析する。2019年度 培養用試薬や蛍光試薬の使用の削減により経費に残額が生じた。この残額を2020年度上記実験のための培養試薬や上記細胞保存のための冷蔵庫等の購入に充当する予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
PloS one
巻: 14 ページ: e0214736
10.1371/journal.pone.0214736