研究課題
PSIIにおける光励起、および、それに続いて起こる電荷分離に関わるコファクターはP680であるが、これを構成する4分子のクロロフィルのそれぞれの役割について、最終的に明らかにすることを目的として、初年度は4分子のうちの1つであるChlD1のMgの軸配位子を水分子の酸素原子を別の原子に変えた好熱性シアノバクテリアの組換え体 (D1/T179H)、および、水分子と水素結合するアミノ酸(D1/Thr179) をValに変えて水素結合できなくなる組換え体 (D1/T179V) を作製し、光合成機能の変化や光阻害などについて調べた。精製したPSIIにおける両方の組換え体の水の酸化活性は野生型と殆ど同じであったものの、特にD1/T179V組換え体は光阻害を受けやすく、強光条件下においてはクロロフィルのブリーチングと一重項酸素の発生量が野生型よりも多く、逆に、D1/T179Hは野生型よりもクロロフィルの消失も一重項酸素発生量も少なくなっていた。熱発光測定により、D1/T179VのP680+/P680のエネルギーレベルが野生型よりも下がっている、もしくは(and/or)、励起状態のP680*のエネルギーレベルが上がっていることが示唆された。この結果については、現在更に詳細を調べているところである。また、ChlD1のリガンド変化が反応中心クロロフィルPD1とPD2のカチオン平衡に影響があるかを調べてみたが、カチオン分布は野生型と同じで、ChlD1のリガンドはこれらに影響しないことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、作製予定であった組換え体を完成させ、大量培養して組換えた光化学系II複合体タンパク質を精製し、部位特異的に構造を変えたことによる光合成機能の変化や光阻害などについて調べ、特に、リガンド分子とP680のエナジェティクスについて、新しい知見を得られたから。
今後は、これらの更なる解析に加え、ChlD2の軸配位子の組換え体を作製し、同様の解析を進めることによって、P680のアクセサリークロロフィルの非対称な配位環境と機能との関係を明らかにして行きたい。実際のところ、現在、ChlD2のリガンドを変えるために、D2/I179HおよびD2/I178Hの組換え体を好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elongatusで作製しているところである。
研究の遂行は順調であったが、予定よりも組換え体作製が早めに完成したため、遺伝子組換えにかかる費用が少なくて済んだため。
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