研究課題
P680は光化学系IIに結合する光励起と電荷分離に関わるクロロフィル分子の総称である。これまで、反応中心タンパク質に結合する4分子のPD1, PD2, ChlD1およびChlD2のうち、PD1とPD2が光励起と電荷分離に関わる分子であると考えられてきたが、4分子が中心金属の距離が8~10 Aにあり、実際にどのように機能しているかは不明な点が多かった。本研究2年目では、これらのChlD1およびChlD2のMgリガンドが水分子と結合し、更にChlD1はThr179と水素結合するものの、ChlD2は水素結合形成しない違いに着目し、D1/Thr179を別のアミノ酸に変えた好熱性シアノバクテリアの組換え体を作製して、光励起と電荷分離について調べた。大量培養したそれぞれの組換え体から光化学系IIを精製し、光照射してP680+を生成させた77 Kでの吸収スペクトルと暗順応させたP680のスペクトルの差を調べたところ、リガンド変異によってChlD1+由来の極大吸収が683.6 nmにあることが明らかになった。このバンドがD1/T179Hでは3 nm長波長側に、D1/T179Iでは0.5 nm短波長側にシフトしていた。過去に作製したPD1の組換え体を使って同様の実験をしたところ、PD1の極大吸収は676.6 nmであることが分かった。これらの事から、ChlD1は4分子のクロロフィルの中で最も低いエネルギーを持つことが分かり、最初に励起される分子はChlD1であることが初めて証明された。また、ChlD1は正電荷を帯びたこと、組換え体でもPD1+/PD2+の比が変化しなかったことから、光励起されたChlD1は電荷分離して一時的に正電荷を帯び、その後すぐに正電荷はPD1とPD2に移動することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
1年目に作製したChlD1の2つの組換え体を用いた結果から、ChlD1とChlD2が同じリガンド環境になる組換え体作製の必要性があると判断したので、2年目は更にD1/Thr179Ileを作製し、精製した野生型、Thr179HisおよびThr179Ileの3つの光化学系II複合体タンパク質を用いて、ChlD1が励起される分子であること、および、最初に電荷分離される分子であることを明らかにした。1年目の結果と合わせてこれらの結果をBiochim. Bipphys. Acta-Bioenergeticsに投稿し、受理されたため、順調に研究が進んでいると判断した。
今後は、ChlD2の軸配位子の組換え体を作製し、変異によるP680のエナジェティクスの変化や副次的電子移動における影響を調べ、、P680のアクセサリークロロフィルの非対称な配位環境と機能との関係を明らかにして行きたい。ChlD2のリガンドを変えた、D2/Ile178HisおよびD2/Ile178Thrの組換え体を好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elongatusの構築は完成させており、最終年度にはChlD2の役割を明らかにするとともに、P680の4分子クロロフィルについての総合的な機能について明らかにしたい。
予定していた研究成果報告のための国内外の出張は招待講演のために旅費を先方が負担したため、また、実験は予定通りに進んでいたが、消耗試薬などは余り使わなかったために予定していた支出よりも少なく済んだ。最終年度は、新たな実験を行うために消耗品の購入が増える。また、データ解析に必要なフォフトウェアの購入などにもあてたい。更に成果報告をもっと積極的に行うため、旅費も使用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
Biochim. Biophys. Acta (Bioenergetics)
巻: 1860 ページ: 297-309
doi.org/10.1016/j.bbabio.2019.01.008
Photosynth. Res.
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doi.org/10.1016/j.bbabio.2018.10.003