生体分子モーターは基質となるヌクレオチドの加水分解エネルギーを利用して働いている。その仕掛けを探りたい。ATP駆動型の分子モーターでは、活性部位でのATP、ADP・Pi、ADP、Pi、emptyといったそれぞれの化学状態に応じた力を化学サイクルに沿って発生することで一方向に動くと考えられている。力発生の設計図とでも言うべきポテンシャルエネルギーをすべてのヌクレオチド化学状態について決定することで、分子モーターの化学-力学エネルギー変換の本質的理解に迫りたい。具体的には、回転分子モーターF1-ATPaseを用いて、活性部位3箇所の化学状態を同定しながら発生するトルクを1分子測定し、最終的に化学状態ごとのポテンシャルエネルギーを回転角度の関数として決定することを試みた。 ガラス表面に固定したF1の回転軸に磁気ビーズを取り付け、磁気ピンセットで作る外部磁場によってATP加水分解または合成の方向に一定速度で回転させながら、F1の出すトルク(回転力)を測定した。磁気ビーズの、磁場の向きからのズレがF1の出すトルクであり、ATP待ちの角度を基準として0から360度の回転角度の関数として求めた。同時に、蛍光性ヌクレオチドを用いてどの活性部位に結合しているのかを偏光・デフォーカス蛍光イメージングによって1分子観察した。結合ヌクレオチド無しの状態とADP1個を結合した状態の測定に成功している。また、ヌクレオチドの結合定数を用いた別のポテンシャル決定法からも同様の結果となることが確認できている。
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