研究課題/領域番号 |
17K07373
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研究機関 | 東海学院大学 |
研究代表者 |
小田 俊郎 東海学院大学, 健康福祉学部, 教授(移行) (20321739)
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研究分担者 |
藤原 郁子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10742075)
武田 修一 名古屋大学, 理学研究科, 研究員 (50509081)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アクチン / TIRF / フラグミン / ゲルゾリン |
研究実績の概要 |
フラグミンによるアクチン線維切断のMDシミュレーション、アクチン-ゲルゾリン変異体複合体等の結晶構造解析、顕微鏡を用いたフラグミンの機能解析実験がそれぞれ良好に進んでいる。課題1.(1)顕微鏡実験に関して。フラグミン野生型、変異型の作成・精製に成功し、蛍光顕微鏡下でフラグミンがアクチン線維を切断する過程の観察を行っている。また米国リーハイ大学の学生と共に束化したアクチン線維の切断過程を観察し、アクチン線維の束を切断する機構についての理解を試みた。(2)結晶構造解析に関して。フラグミンの機能ドメイン、およびゲルゾリンやCapGとアクチンとの複合体の結晶構造解析を試みている。課題2.フラグミンによるアクチン線維切断のMDに関して。新しいワークステーションを購入してフラグミン-アクチン複合体のMDが行える環境を整備した。2日で110ナノ秒のMDシミュレーションが計算できる。100ナノ秒程度でのMDでは、アクチン-フラグミン系で特に興味深い現象はムービーとして観察できなかった。そこで、その軌跡を詳細に検討するために、アクチン分子の構造空間を、これまで報告された約220個の結晶構造等を用いて同定した。この構造空間はアクチン分子を構成する2つの大きなドメインの空間配置を指標にしたのもで、F型(フィラメント型)、C型(コフィリンか結合型)、O型(開クレフト型)、G型(単量体型)のコンフォメーションや結合したアクチン結合蛋白質の違いを明瞭に見分けられる。その空間内をジャンプ運動する点として、アクチン分子の構造変化を記述し、検討できるようになった。アクチン-フラグミン系だけでなく、アクチンに関する他の系の評価にも適用できる一般的な手法が確立できたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1.(1)顕微鏡実験に関して。野生型フラグミンに対し、N末端を持たない変異フラグミン(ΔN型)を作成、精製した。アクチン線維の切断機構は全反射顕微鏡(TIRF)を用いて、アクチン線維1本1本が切断されていく様子をリアルタイムで観察・計測した。結果、同じフラグミン濃度でもΔN型はアクチン線維を切断に要する時間が掛かること確認された。これは切断活性が低いためである。現在、N末端が切断機構(結合とそれに引き続く切断)のどちらの機構に寄与するかをKineticsのフィッティングによって分析している。本年度の目標が、「切断頻度測定から切断の速度定数を決定する方法の確立」であったことから、順調に進んでいるといえる。(2)結晶構造解析に関して。Fアクチン側面結合部位である、F2-F3ドメイン単独での結晶構造の決定に成功し、Ca結合部位の詳細な構造を明らかにした。ゲルゾリンやCapGとアクチン複合体の結晶化条件スクリーニングを行なっているが、まだ結晶は得られていない。本年度の目標は「切断能のないCapGおよびキメラ蛋白質とアクチンとの複合体の結晶構造解析を行う」で、変異体を調製して結晶化を行っているが、結晶は得られていない。結晶化ではよくあることで、アクチンとゲルゾリン様タンパク質との複合体の結晶化には十分な経験があり、特に問題があるとは感じていない。結晶化できれば、迅速に研究は進展すると思われる。課題2.本年の目標はMD環境の導入であった。MDの結果を評価できる手法を開発しており、目標は十分に達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
課題1.(1)と(2)顕微鏡実験に関して。N末端を持たない変異フラグミン(ΔN型)の切断能に関する解析を仕上げ、論文として発表する。さらに、Ca感受性部位に変異を加えたフラグミンを作成し、切断活性を計測することで、フラグミンによるアクチン線維切断機構のメカニズムを紐解いていく。さらに、機能部位スワップキメラタンパク質を発現・精製する。これを用いて、切断活性を検定するとともに、アクチンとの複合体を作成し、結晶化条件を探索し、原子構造の解明を目指す。課題2.評価に用いる構造空間の自由エネルギーランドスケープを計算し、アクチン分子の持つ運動性について評価する。また、Fアクチンーフラグミン系のMDを行い、主成分解析や揺らぎ解析などを行い、切断のイベントを検討していく。また、粗視化MDの導入も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
TIRF実験にもちいるレーザー光源の更新が必要か、決めることも本年度の課題であった。当面、更新の必要性がないとの結論を得て、本年度の更新を見送った。課題の難易度が上がり、レーザーの必要性が増せば、次年度購入する(繰り越し分約60万)。また、結晶構造解析・生化学実験に関わる費用が見積りより低く、差額が生じた。次年度は、新たな結晶化手法を試みたり、多様な変異体の結晶化を試みたり、出費がかさむと予想されるので、次年度申請額の40万円も合わせて、消耗品費など物品費にあてる。
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