研究課題/領域番号 |
17K07383
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
天野 睦紀 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90304170)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 細胞内情報伝達 / リン酸化 / プロテインキナーゼ / 基質 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、細胞内タンパク質リン酸化シグナルネットワークの全体像を理解するための分子基盤を構築することを目的として、プロテインキナーゼの基質認識機構の解析およびキナーゼの活性調節・モニタリングツールの開発を行う。 本年度はRho-kinaseとその基質であるMYPT1のキナーゼ・基質間相互作用の解析を行った。MYPT1はRho-kinaseの既知の基質であり、KISS解析によってもRho-kinaseの触媒領域との相互作用が強く示唆されたことから、Rho-kinaseとの相互作用に必要なMYPT1領域の同定を試みた。その結果、MYPT1の2箇所のリン酸化部位近傍のそれぞれ十数アミノ酸程度の領域(ドッキングモチーフ1および2と呼ぶ)が、リン酸化部位と共にRho-kinaseとの相互作用に必要であることを見出した。ドッキングモチーフ1と2の配列類似性は低く、それぞれのドッキングモチーフがRho-kinaseの異なる領域と相互作用する可能性も示唆された。さらに、ドッキングモチーフとリン酸化部位を含むMYPT1断片が、in vitroおよびin vivoでRho-kinaseの活性を抑制することも見出し、Rho-kinaseの活性調節ツールとしての応用が考えられる。 また、KISS法によりRho-kinaseの類縁キナーゼであるMRCKの基質スクリーニングを行い、ラット脳抽出液より約50種の候補基質を得た。MRCKを含め、Rho-kinase (ROCK2)と類似のリン酸化周囲配列を持つROCK1、PKA、PKNの基質の比較解析を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(1)キナーゼ基質のスクリーニング、(2)キナーゼの基質認識機構の解析、(3)キナーゼの活性調節・モニターツールを開発、を予定していた。 (1)については、MRCKの基質スクリーニングを行なった。(2)については、Rho-kinaseとその基質であるMYPT1のキナーゼ・基質相互作用について解析を行い、新たにRho-kinaseとの相互作用に必要な2箇所の領域(ドッキングモチーフ)を見出した。(3)について、MYPT1のドッキングモチーフとリン酸化部位を含む断片がRho-kinaseを抑制することを示した。上述のように、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、キナーゼの基質認識機構の解析およびキナーゼの活性調節・モニターツールを開発を行う。本年度に同定したMYPT1のドッキングモチーフを基に、Rho-kinaseの機能抑制ペプチドや活性モニターツールの作製・評価を試みる。現時点では、スクリーニングで得られたRho-kinaseの基質配列情報のin silico解析で共通のモチーフを見出すことは出来ていない。MYPT1で同定した2箇所のドッキングモチーフは配列の類似性が低く、複数種類のドッキングモチーフが存在する可能性が考えられる。MAPKの場合、少なくとも2種類の異なるドッキングモチーフが報告されており、リン酸化部位との距離の可変性が高く、またそのルールも緩い。もしRho-kinaseの場合も同様であれば、MYPT1以外のドッキングモチーフ例を収集することでin silicoモチーフ解析を効率的に行うことが出来ると思われる。そのため、他のRho-kinaseの基質からドッキングモチーフを実験的に同定する。また、Rho-kinase以外のキナーゼについても比較検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
MYPT1において同定した2箇所のキナーゼ相互作用配列(ドッキングモチーフ)の配列類似性が低かったこと、またRho-kinase候補基質配列のin silicoモチーフ解析で高スコアの共通モチーフを見出すことが出来なかったことから、ドッキングモチーフが複数存在し、かつ弱いルールである可能性が強く示唆された。in silico解析に想定以上の時間がかかったことで研究費の一部を次年度に使用することとなった。
|