本研究課題では、プロテインキナーゼの基質認識機構、活性調節機構の解析を行い、またその生理機能や疾患との関わりを明らかにすることを目指している。本年度の研究成果は下記の通りである。 1) マウス脳線条体において、転写共役因子であるMKL2がMAPKによってリン酸化されることを見出し、その生理機能解析を行った。線条体のドパミン1型受容体発現中型有棘神経細胞はドパミンの下流で快情動の制御に関わる。MKL2は、ドパミンシグナル依存的にリン酸化を受け転写共役因子CBP1、転写因子SRF1と複合体を形成すること、細胞質から核に移行すること、またc-fosやNpas4などの遺伝子発現を亢進することを示した。このことより、線条体のドパミン1型受容体発現中型有棘神経細胞においては、ドパミン刺激によって活性化したMAPKがMKL2をリン酸化することで、MKL2の核移行を促進してMKL2/CBP1/SRF転写複合体を形成し、遺伝子発現を調節することが示唆された。 2) Rho-kinaseの基質タンパク質であるMYPT1について、リン酸部位の周囲にある特定の配列(ドッキングモチーフ)がリン酸化位置の選択・リン酸化効率に重要であることを示してきた。ドッキングモチーフに欠失や1アミノ酸変異を導入することで、基質認識に必要な配列を同定した。他の既知の基質タンパク質について、ScribとDip2cにおいて類似の配列(相同性は低いものの)がドッキングモチーフとして機能することを見出した。また共同研究者と共に、KISS法によりスクリーニングした基質データを用いて、in silicoにてドッキングモチーフの抽出を試みた。
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