研究課題/領域番号 |
17K07384
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木内 泰 京都大学, 医学研究科, 准教授 (70443984)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超解像顕微鏡法 / 細胞骨格 / 3次元イメージング |
研究実績の概要 |
多重染色超解像顕微鏡法IRISを高分解能な3次元イメージングへと発展させるため、照明方法、Z方向の分解能、測定中のZドリフトの詳細な検討を行った。IRISでは、標的に結合解離する蛍光プローブを用いて標的を標識するため、標的と結合していない蛍光プローブが溶液中を拡散し、背景光を増大させる。この背景光を抑えることは、蛍光1分子の中心点の精度つまり中心点を積算し再構築される超解像画像の分解能を高めることにつながる。この背景光を抑えるためにシート状の励起レーザーをサンプルに斜めに照射するHILO照明を採用した。適切な測定条件を検討するためにシートの厚さや入射の位置、角度、方向を可変にした。そしてアガロースゲルに埋め込まれた蛍光ビーズの蛍光画像を用いて測定条件に応じた励起範囲を明らかにし、観察するサンプルのXY範囲や高さに応じた最適の励起条件を決めた。また補償光学系MicAO(Imagine Optic社)を導入し、AstigmatismによってZ方向の分解能を光の回折限界以下にした。そしてZ方向の分解能の精度や観察視野内での範囲など、MicAOの実用的な測定条件を検討した。IRISは、蛍光1分子の高精度な位置決定に基づく超解像顕微鏡法の原理を応用しているため、測定時間が数分から数時間と長くなる。このため測定中のZドリフトは、Z方向の分解能に大きな影響を及ぼす。そこで、Zドリフトを抑えるための様々な測定条件や機器の検討を行った。これらの測定条件を検討することで、Z分解能が150~200 nm程度の細胞頭頂部のアクチン細胞骨格や微小管の3次元超解像画像を得ることができた。これらの成果は、第18回国際薬理学・臨床薬理学会議(2018.7 京都)でポスター発表し、さらに第92回日本薬理学会(2019.3 大阪)のシンポジウムでより詳細に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IRIS方式の超解像顕微鏡法を高分解能な3次元イメージングへと発展させるためには、いくつかの要素技術を検討する必要があった。背景光を抑えるためHILO照明の実験条件を検討した。ライトシートの厚さを変えるために位置と幅を変えられる可変スリットを導入した。さらにレーザーの入射の角度と方向を可変にするため、2軸のステップモーターで傾きを変えられるミラーを光路に導入した。これらの測定条件を検討することで、カバーガラスから高さ10 μmの場所でも結合解離プローブの蛍光1分子画像が取得でき、IRIS超解像画像を再構築できるようになった。しかし、HILO照明だけでは、焦点面内でのZ方向の分解能は光の回折限界を超えられない。そこで、補償光学系を導入し、AstigmatismによってZ分解能を高めた。さらに測定中のZドリフトを抑えるためにピエゾ素子を利用した対物レンズの駆動システムを導入した。そしてオリンパス社製のZドリフトコンペンセータシステムと組み合わせることで、Zドリフトを標準偏差30 nmまで抑制した。これらの測定条件を検討することで、Z分解能150~200 nmの3次元超解像イメージングを構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
転移性のがん細胞は、細胞外からの刺激によって細胞骨格を3次元的に再構成し、浸潤・転移していく。この分子メカニズムを解明するため、EGF受容体とその下流のシグナル分子に対する結合解離プローブの作製を進める。また3次元超解像イメージングのZ方向の分解能の改善を進める。AstigmatismによるZ方向の分解能は、蛍光1分子のシグナル強度に依存する。そこで、結合時間のより長いプローブの作製やより多くのphotonを放出する蛍光色素の選定を進める。さらに測定中のZドリフトを抑制するだけではなく、Zドリフトを光の回折限界以下の範囲で検出し、補償するシステムの構築を進める。そしてEGF刺激を行った時のアクチン線維や微小管の動態を蛍光アクチンの単分子可視化法とEB1のタイムラプスイメージングで観察し、その後取得する3次元多重染色超解像画像に重ね合わせることで、細胞骨格と接着斑の配置パターンの3次元的な再構成機序を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成30年度請求額とあわせ、平成31年度の研究遂行に使用する予定である。
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