研究実績の概要 |
転移性のがん細胞は、細胞骨格や接着構造を3次元的に再構成し、浸潤・転移を行う。この再構成機構を調べるため、多重染色超解像顕微鏡法IRISを3次元イメージングへと発展させた。 蛍光1分子の高精度な位置情報に基づく超解像顕微鏡法(PALMやSTORM)では、多数枚の蛍光1分子画像から超解像画像を再構築する。3次元化するためには、さらなる枚数が必要となるが、PALMやSTORMでは蛍光抗体や蛍光タンパク質の退色のため、取得する枚数には限界がある。IRISでは、標的に結合解離する蛍光プローブを用いて標識するため、プローブは絶えず入れ替わり、取得する枚数に限界がない。さらにプローブ交換によって複数の標的を連続的に標識できるため、より多数枚の画像を必要とする3次元多重染色超解像可視化を可能にする。 本研究では、焦点面以外からの背景光を抑えるために励起レーザーをシート状に斜めに照射するHILO照明を採用し、シートの厚さや入射の位置、角度、方向を可変にする光路系を構築した。Z方向の分解能を光の回折限界(約500 nm)を超えるために補償光学系を導入し、AstigmatismによってZ方向の分解能を向上させた。細胞の明視野画像からZ位置を高精度に計測する顕微鏡法を開発し、Zドリフトを補正した3次元超解像画像の再構築を可能にした。これらの方法で、細胞頭頂部のアクチンや微小管の3次元超解像画像をZ方向の分解能100~150 nmで得ることができた。さらにEGFシグナル伝達に関わる分子群の多重染色画像を得ることで、細胞骨格や接着斑とEGF受容体及びシグナル分子の空間的な位置関係を得た。これらの成果は、第69回日本細胞生物学会年会(2017.6, 仙台)や第92回日本薬理学会(2019.3 大阪)のシンポジウム、日本メカノバイオロジー研究会(2019.9 直島)で報告した。
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