研究課題/領域番号 |
17K07396
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上村 陽一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 上級研究員 (20321599)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 三量体Gタンパク質シャトリング / 走化性 / 細胞性粘菌 / Gip1 / 三量体Gタンパク質 |
研究実績の概要 |
ヒトの白血球や細胞性粘菌のような走化性細胞はわずか1%程度の濃度勾配を10万倍もの濃度域に渡り検出する能力を持つ。本研究では、申請者が見出した走化性のダイナミックレンジを広く維持する三量体Gタンパク質シャトリングに注目する。このような制御にはGip1とGタンパク質の複合体形成が重要な役割を果たす。細胞質に局在するGip1はGタンパク質の結合因子として同定されてきた。しかし、どのようにして疎水的な脂質修飾を持つGタンパク質が親水的な環境である細胞質でGip1と複合体形成できるかは不明であった。 そこで本年度は、「Gip1とGタンパク質の結合様式」について解析を進めた。昨年度、Gip1のGタンパク質結合領域について結晶構造の解明に成功した。また、生化学的実験からGタンパク質のγサブユニットに修飾されているゲラニルゲラニル基がGip1との複合体形成に重要であることがわかった。今年度はこれらの相互作用が、細胞の走化性応答にどのような影響を与えるか検討した。その結果、Gip1の疎水性の穴を介したGタンパク質との相互作用がなくなった細胞では、cAMPに対する走化性のダイナミックレンジが縮小し、特に高濃度領域での応答に異常が生じていた。また、Gip1の羅的アラニンスキャン変異法により、Gip1とGタンパク質複合体形成の構造機能解析を進めた。その結果、疎水性の穴以外にも、C末端側にGタンパク質との複合体形成に重要なアミノ酸を同定した。この役割については現在解析中である。これらの知見についてまとめた論文をNature Communications誌に発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画では「Gip1と三量体Gタンパク質の複合体形成と走化性応答の関係の理解」を目標とした。そのために、Gip1の構造からGタンパク質との複合体形成を特異的に阻害する変異株を作製し、走化性ダイナミックレンジの拡張にこの反応が必須の機能を持つことを示した。これらの結果から、目標とした「Gip1とGタンパク質の結合による走化性応答について」ほぼ理解できたと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度はGip1と三量体Gタンパク質との複合体形成に関して構造的な理解が得られた。三量体Gタンパク質はcAMPの刺激依存的に、Gip1から解離し、細胞質から細胞膜へとその局在をダイナミックに変える。今後は、この分子基盤についてさらに解析を進めGタンパク質シャトリングの全貌を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
Gip1の構造が当初の予定より早く解明できたたため。繰越金に関してはGタンパク質のトランスローケーション実験に使用する。また、当初予定していなかった新たな制御がダイナミックレンジ拡張に働くことを見出し、その解析のために利用する。これらにより、研究課題の効率的な遂行に用いる。
|