研究課題/領域番号 |
17K07398
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
森島 信裕 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別嘱託研究員 (40182232)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨格筋分化 / 小胞体ストレス / 小胞体カルシウム枯渇 / 細胞周期離脱 |
研究実績の概要 |
骨格筋前駆細胞である筋芽細胞の融合過程において小胞体からカルシウムが漏出してカルシウム枯渇が起こることを私たちは以前見出した。本研究は、筋芽細胞株を用い、カルシウム枯渇が引き起こされるメカニズムや小胞体内から細胞質ゾルへ出たカルシウムが起動するシグナル伝達系を調べ、それが筋分化過程において果たす役割を示すことを目指している。これにより、筋分化過程におけるカルシウムシグナル系起動の仕組みや意義を明らかにすることを目的としている。 小胞体カルシウム枯渇に関わる細胞内のイベントを詳細に調べるため、前年度までにGFP(緑色蛍光タンパク質)を利用した小胞体カルシウムセンサータンパク質STIMの凝集可視化プローブ作製を行い、これを用いてカルシウム枯渇時期を特定した。さらに、この時期の小胞体ストレス応答タンパク質の挙動を調べ、ストレス応答が起きていることを確認した。 筋芽細胞分化実験系においては、分化誘導後も細胞周期の進行があり、少なくとも1回の分裂が起こると言われてきたが、細胞周期離脱についての詳細な知見はほとんどない。そこで、カルシウム枯渇の時期と細胞周期離脱の時期との関係や小胞体ストレス応答が細胞周期離脱の制御に関わる可能性を追求するため、GFP類縁タンパク質で標識した細胞周期マーカータンパク質(CDT1, geminin)を安定的に発現させた筋芽細胞株を作製して細胞周期の解析を行なった。カルシウム枯渇の時期には細胞集団のうちの約三分の一がG2からM期前半にあり、残りはG1期にあることが示唆された。その後、カルシウム枯渇が終わって約12時間経過した時点までにほぼ全ての細胞がG1期にあることを示す結果が得られた。これはカルシウム枯渇の時期が細胞周期離脱と最終分化過程(細胞融合)の転換期に当たっていることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染対策として所属機関の長期閉鎖や実験施設の使用制限が実施され、筋芽細胞分化実験を行う機会が制限されてしまったため。筋芽細胞の分化実験は一回あたり二日から1週間継続して行なっている。分化誘導実験は、異なる解析手段を用いる度に繰り返し行う必要があり、また、酵素阻害剤の使用や遺伝子ノックダウンなどの利用を試みるにはさらに多数回の実験が必要となる。しかし、上記の事情により、十分な分化実験を行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに小胞体カルシウム枯渇のプローブをGFPを利用して作製し、筋芽細胞で安定的に発現させることができ、今年度はさらに細胞周期プローブ安定発現細胞株の作製と解析に成功した。これらを用いた解析結果をもとに、小胞体カルシウム枯渇の時期における様々な細胞内タンパク質の挙動を解析し、カルシウム枯渇を含むカルシウム動態の変化による細胞内応答を詳細に調べる。その解析により、カルシウム枯渇の起こるメカニズムとその影響を筋芽細胞の細胞周期離脱、最終分化進行と関連づけて明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染対策として所属機関の長期閉鎖や実験施設の使用制限が実施されたため実験を計画通りに進めることができず、十分な解析データを得ることが困難であった。次年度には、これまでやり残した解析を確実に行い、研究の取りまとめに新たに必要となる試薬の購入や研究発表のための支出に助成金を使用する。
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