細胞が分裂期染色体を構築する過程の詳細はいまだ明らかにされていない。申請者は本研究を立案する段階で、分裂期染色体の表層に局在する因子(Ki67抗原)が同過程に貢献していることを報告した。コンデンシン複合体などが染色体構造を内側から支持するのに対し、Ki67抗原は染色体構造を外側から支持すると考えられた。本研究では「Ki67抗原が分裂期染色体構造を支持する分子機構」を多角的に解析し明らかにすることを目指した。またKi67抗原を主成分とする「分裂期染色体の表層領域」の性状を分析し、その形成機構の理解を目指した。これらの解析を通じて、分裂期染色体構築過程の背後にある原理や分子機構をより深く理解することを目的とした。 2020年度は、前年度までに得られた知見を伸展し「Ki-67抗原が分裂期染色体表層に局在するメカニズム」について新たなモデルを提出するに至った。すなわち「Ki-67抗原には液液相分離 (LLPS: liquid-liquid phase separation) 活性があり、その活性に依存して分裂期染色体上に層状に集積する」というモデルである。また並行して「Ki-67抗原を含む分裂期染色体表層領域 (PCL: perichromosomal layer)を生細胞において瞬時に除去し、また瞬時に再形成することができる実験系」を構築した。これを薬理的手法などと組み合わせることによりPCL形成の素過程を分析することが可能となった。いずれもKi-67抗原の作用機序を理解するための重要な手がかりになると思われる。
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