von Willebrand因子(VWF)は血管内皮細胞で産生される止血タンパク質である。VWFはWeibel-Palade小体(WPB)と呼ばれるオルガネラにマルチマーとして貯蔵され、即時の止血に備えている。WPBは内腔pH5.4の酸性オルガネラである。その微小酸性環境は、VWFのマルチマー化およびWPBの形成に必須であることが明らかにされているが、その環境の形成メカニズムは不明である。本研究課題を通して、代表者はプロトンポンプの一つであるVesicular H+-ATPase(V-ATPase)は血管内皮細胞においてWPBに局在していることを見出し、その生理的な意義について明らかにすることを目的に本研究を行った。血管内皮細胞HUVECをV-ATPaseの阻害剤で処理すると、VWFダイマーが選択的に分泌されるようになる。VWFは、小胞体で一本鎖タンパク質として合成されるとC末端領域をジスルフィド結合で架橋されたダイマーへと変換される。VWFダイマーはゴルジ体へと輸送され、N末端領域のジスルフィド結合を介してマルチマーへと変換される。VWFマルチマーはWPB内腔にパッケージングされ、適時の分泌に備えている。これらの既報の事実を考慮すると、V-ATPaseはゴルジ体近傍で、マルチマー化およびWPBへのパッケージングに寄与していると考えられる。V-ATPaseは、ATPの加水分解エネルギーを駆動力として、細胞小胞内もしくは細胞外へとH+を輸送する。V-ATPaseは少なくとも13のサブユニットから構成されるタンパク質複合体である。各サブユニットの細胞内局在を調べたところ、V0a2はゴルジ体近傍の新生WPBに、V0a1は細胞辺縁部の成熟WPBに局在することが判明した。shRNAで両者を枯渇してもマルチマーの形成能には変化が見られなかったが、WPBの形成は著しく阻害された。これらの結果から、HUVECにおいてV-ATPaseはWPBの形成に寄与する分子であることが明らかとなった。
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