研究課題/領域番号 |
17K07402
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
梅津 大輝 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (60620474)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コンパートメント境界 / 自己組織化 / 細胞の選別 / 細胞接着 / 細胞間張力 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
多細胞生物の発生にはいつも正確に同じ形を作るための精密な仕組みがある。例えば、系譜の異なる細胞同士が混ざり合わないことによって区画化が行われる。このような区画はコンパートメントと呼ばれる。コンパートメント境界は驚くほど真っ直ぐに維持され、パターン形成を行う際の基準として機能する。本研究では、コンパートメント境界の形成と維持を組織構築の自己組織化の第一歩と位置づけ、その仕組みを分子から細胞、細胞から組織への一連の過程として理解することを目指す。研究代表者は優れた遺伝学が利用可能なショウジョウバエを用い、ライブイメージングに適した表皮の上皮組織に見られるコンパートメント境界を研究モデルとして用いて研究を進めている。本研究ではまず、TLRファミリーに属する4つの遺伝子が表皮上皮組織において特徴的な発現パターンを有することを明らかにした。中でも、Toll-1はコンパートメント境界と一致するシャープな発現境界を示した。このことから、Toll-1の発現量の違いが境界の維持に寄与する可能性が考えられた。そこで、Toll-1が接着分子として機能し、細胞間の接着性の違いによって細胞集団間の境界を維持する可能性を検証した。ショウジョウバエ由来の培養細胞S2が凝集塊を形成するかどうかを指標とし、Toll-1が細胞接着分子として機能することを示した。興味深いことに、Toll-1のこの活性に対し、アクチン細胞骨格の寄与はほとんどないことが示唆された。また、Toll-1の変異個体では境界が乱れることから、Toll-1が境界の維持に必要であることが示された。これらの研究結果は、免疫系におけるシグナル受容体として重要な働きを持つTLR遺伝子群の非免疫機能が明らかとなった点において、注目すべき成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表皮上皮組織でコンパートメント特異的に発現するToll-1に焦点を絞り、上皮におけるTLR分子の機能の解析を進めた。Toll-1に蛍光タンパク質タグを導入し、GAL4/UASシステムによって遺伝子発現を誘導可能な系統を新たに作製した。さらに、培養細胞を用いた実験系を立ち上げ、多角的に分子の機能解析を行い、 Toll-1が細胞接着に機能していることを示す結果が得られている。これらの成果を論文として投稿し、現在論文改訂のための実験を行なっている。そのために次年度に延長申請を行い、次年度中の論文受理を目指している。また、 Toll-1以外の TLR遺伝子の発現パターンも興味深いものであることから機能解析を進めている。4つのショウジョウバエToll 受容体遺伝子が上皮組織に発現しており、それぞれパターンが異なる。それらの遺伝子を、上皮組織にモザイク状に誘導した体細胞クローンで異所的に発現させると、体細胞クローンが滑らかな輪郭を持ち、周囲の細胞から分離されるような形態を示した。このことから、細胞同士の認識や適合性において重要な働きを持つ可能性が考えられ、新たな展開が期待される。Toll-1の機能解析については主要な実験結果が得られており、現在行なっている実験は、得られた実験結果をより強固にするためのデータ取得が主である。また、組織適合性におけるTLR遺伝子群の働きという新しい分野の開拓につながる発見があったことから、期間の延長を申請してはいるものの、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Toll-1遺伝子の境界維持という機能への特異性を示すために、境界の形状、細胞形態、アクチン細胞骨格の動態を、異なる発生段階において定量的に解析する。また近年、ショウジョウバエ腹部表皮において前後軸に沿った特徴的な発現パターンを示す細胞平面内極性の制御遺伝子との関連を明らかにすることで、複雑な形態形成過程の制御機構について理解を深める。また、細胞間の張力と細胞間接着の関係について両者を切り分けることは困難と考えられているが、細胞による自己組織化の研究分野において長い間議論の続く核心的な課題であり、この挑戦的な課題に取り組みたいと考えている。新たな数理モデルの構築や高精度の統計学的アプローチがこの問題の解決の糸口となると考えられることから、これらの手法を用いて、Toll-1 の働きについて、細胞間の張力と細胞間接着の制御にそれぞれにどのように寄与しているかを検証する。 また、隣接する細胞間のTLR遺伝子群の相対的な発現量が組織への適合性を決めているという新規のモデルを考案した。このことを実験的に検証することで、細胞のアイデンティティーと組織への適合性の関連という新たな研究命題を構築することができると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題に関する論文を投稿し、現在、論文の改訂実験に取り組んでいる。論文受理まではいくつかの補足的な実験が必要であることから引き続き消耗品やデータ解析のための機器の購入が必要となることが見込まれる。また、英文校正費用、論文掲載費用などにも使用する予定である。
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