研究課題/領域番号 |
17K07406
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
船山 典子 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30276175)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 襟細胞 / 幹細胞化 |
研究実績の概要 |
申請者らは淡水性のカワカイメンを用い、芽球から個体形成させた幼若個体において人工的にほぼ100%の効率で芽球形成を誘導する実験系をすでに立ち上げていたが、芽球形成自体の開始や進行は個体ごとに日のオーダーでバラツキがあった。襟細胞のEMTを介した幹細胞化は芽球形成過程の初期、すなわち幹細胞の凝集が顕微鏡下で識別出来る以前(誘導開始約1週間以前)におきていると考えられるため、本研究遂行のために日のオーダーで同調させた実験系の確立が必須であった。幼若個体を形成させる芽球の数、培養条件など様々な条件を検討した結果、同調に成功した。
一方、襟細胞の挙動の解析を目的として、カイメン個体の一部を約70μmの厚さに形成させ、倒立顕微鏡、また基礎生物学研究所の藤森俊彦博士の研究室にあるコンフォーカル顕微鏡など様々な顕微鏡を持いた明視野タイムラプス撮影および明視野観察を行った。しかし当初の予想以上に1)襟細胞室周囲の幹細胞を含む間充織細胞が活発に襟細胞室にそって移動する、2)1層の袋状構造をとる襟細胞室を形成する個々の襟細胞の細胞形態を識別することが困難である、と分かった。DiIなど生細胞染色を用い、カイメンに取り込ませる、カイメン体内空間に顕微注入する等様々な工夫を試みたが、成功に至っていない。
カイメン細胞への遺伝子導入法は申請者らを含む多くの研究室で試みてきたものの、これまで世界的に未だ確立されていなかった。すなわち、どの様なプロモーターがカイメン細胞内で効率良く働くのか、どの蛍光タンパク質が安定して発現するのかも不明であった。そこで本年度は、これらの条件検討と、カイメン細胞への遺伝子導入法の検討を平行して行った。電気孔穿法の溶液など複数条件に独自の工夫を重ねた結果、プレリミナリーながらカイメン体内の間充織細胞で蛍光タンパク質を発現させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界に先駆けてカイメン細胞での遺伝子発現系の確立に成功したことは非常に大きな成果であり、予想以上に順調に進んでいる。 一方、襟細胞室を形成する個々の襟細胞の挙動を追える解像度の明視野観察やライブイメージングが予定より進まなかった。明視野観察に関しては、襟細胞室が半球形から球形であること、また、周囲を多数の細胞が活発に移動していることが判明したこと等当初予想以上に困難であることが解析の結果分かったためである。また、襟細胞の生体色素による染色に関し様々な工夫を重ねて挑戦したものの、予想外に困難であり成功に至らなかった。ただし、この実験を通じて、襟細胞室と水管系形成、襟細胞室について新たな知見を得、今後の研究のアイディアを得ることが出来た。 カワカイメンαカテニンの配列を同定し他の動物のものとの相同性を明らかにした。既存の抗αカテニン抗体のうち、広い範囲の動物種のものを認識出来る抗体を分与いただき、蛍光抗体染色を行ったが明瞭なシグナルを得ることは出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
カイメン間充織細胞への遺伝子導入法確立のめどが立ったという大きな成果が平成29年に得られたため、この手法を応用、襟細胞への遺伝子導入法を確立する。襟細胞にDNA液が届くような工夫、また電気孔穿法の通電の電極、面などを工夫する。加えてより導入効率を上げる条件の、検出可能な期間の解析などを上げる条件の検討なども行い、さらにカイメンにおけるオプトジェネティクスの確立も試みる。申請者らのがこれまでに行った襟細胞トランスクリプトーム解析およびin situ hybridization法によるmRNA発現解析を参考に、襟細胞特異的プロモーター配列の同定を試み、それを用いて襟細胞特異的発現ベクターを開発する。また、襟細胞のEMTを捉えるために、襟細胞間接着の検出を期待してカワカイメンαカテニンに対する抗体を作成、抗体染色を用いた解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
1)芽球形成過程を同調させた実験系の確立に予想以上に時間がかかったこと、2)襟細胞の可視化および観察が当初の予想よりも困難であったこと、3)カワカイメンαカテニンの配列を同定、他の動物のαカテニンと比較したところ相同性がかなり高かったため、既存の抗体を用いて抗体染色を行ったこと などから、αカテニンの新たな抗体作成は行えず、平成30年度に持ち越すことになったため次年度使用額が生じた。
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