研究課題/領域番号 |
17K07406
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
船山 典子 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30276175)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 上皮 / カイメン動物 |
研究実績の概要 |
カイメン上皮細胞(襟細胞を含む)の細胞接着を抗体染色法で検出し、襟細胞の脱上皮化を捉えることを目的に、以下を行った。1)カワカイメンの2つのClassicalカドヘリン分子(細胞外領域が非常に長く、数十のカドヘリンリピートを持ち、細胞質側には他の動物のベータカテニン結合領域と相同のドメインを持つ)、即ち、EflClassicalCadherin1(以下EflCCad1と略す、約8.5 kb), EflClassicalCadherin2 (約16Kb)に着目した。他の動物でのカドヘリン分子に対する抗体作成の際の抗原部位を参考に、各々の遺伝子に関し、2ヶ所のカドヘリンリピート2つ分の領域を、組み換えタンパク質として大腸菌で発現させ、得られた組み換えを抗原とし、抗体作成を試みた。実験デザインとして可溶化しやすいSUMOタンパク質との融合タンパク質発現を行い、大腸菌での発現には成功したものの、全ての種類の組み換えタンパク質が不溶性となってしまい、精製に必須である可溶化条件の検討等に長い時間を費やした。最終的には可溶化を断念し、SDS電気泳動後にアクリルアミドゲルのバンドを切り出す粗精製を行い、抗原として抗体を作成した。残念ながら得られた抗血清の抗体価は低く、上皮細胞間の細胞接着に非常に弱いシグナルがあるものの、他の部分にもシグナルが検出され特異的であると結論づけることは出来なかった。タンパク質発現実験系を当研究室で立ち上げることが出来たため、今後、短い領域であはあるがリピート構造以外の細胞外領域、細胞質領域(βカテニンなどが結合する可能性があり当初避けていたが、他の動物でこの部分で抗体が作成された例がある)に対する抗体作成を再度試みる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カイメン上皮細胞(襟細胞を含む)の細胞接着を抗体染色法で検出し、襟細胞の脱上皮化を捉えることを目的に、以下を行った。1)当研究室で作成したカワカイメントランスクリプトームデータから得られた、2つのClassicalカドヘリン分子(細胞外ドメインが非常に長く、EflClassicalCadherin1(以下EflCCad1と略す、約8.5 kb), EflClassicalCadherin2 (約16Kb)のドメイン構造を解析、他の動物ではカドヘリンリピートに対する抗体が作成されていることを参考に、各々の遺伝子のカドヘリンリピート2つ分、2ヶ所を選び、発現ベクターを作成、抗原タンパク質の大量発現を試みた。2)京都大学、生物科学専攻 栃尾研究室の指導と協力を得て、発現ベクターはpET-28a-ST2-14Hisを用い、4種類のタンパク質の発現を試みた、全てに関して発現に成功した。3)しかし全てが不溶タンパク質であり、ホストの大腸菌、培養温度、インダクションの時間など様々な条件を検討したが可溶化できなかった。4)不溶性のタンパク質では、当初予定していた、Hisタグでの精製及びSUMOとの切断が出来ない為、カワカイメンカドヘリン部分だけ(EflCCad2リピート33, 34部分)を大量発現させ、これも不溶性であったため、SDS電気泳動後にアクリルアミドゲルから目的のタンパク質のバンドを切り出し、ゲルをすりつぶして抗原とした。4)外部委託により約14日毎に4回免疫、血清を得た。当研究室ですでに複数得られていた、カワカイメンの特定のタンパク質に対するポリクローナル抗体ををポジティブコントロールとして用い、得られたEflCCad2rpt33-34に対する抗血清を用い、複数の固定液を用いた抗体染色を行ったが、強いシグナルを得ることが出来なかった。抗体価が低かったのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
カイメンの細胞間接着分子とその局在の解析は、本研究で目的としている襟細胞の脱上皮化と多能性幹細胞化の解析のためだけに留まらず、多細胞化に必須な細胞接着の進化を考える上でも、多細胞動物の起源的な細胞間接着を考える上でも重要である。このため、今回抗原として用いたカドヘリンリピート以外の領域、①リピート構造のない細胞外領域部分(余り長い配列ではないが、膜貫通領域の直前)、細胞質領域(βカテニンなどが結合する可能性があるため、抗体のアクセスが難しい可能性を考え今回は候補から除いていたが、他の動物でこの部分で抗体が作成された例もある)に対する抗体作成を再度試みる予定である。また、得られた抗体の特異性をどの様に示すために、唯一出来ることとして、複数個所に対する抗体を作製し、同じシグナルが得られることを示す必要がある。すでに行ったWhole mount in situ hybridizationでは、明確な上皮細胞でのシグナルを検出出来ていない(カワカイメン上皮細胞は殆どが非常に扁平、襟細胞は非常に小型などで、強いシグナルを得る事が困難)、約1ミリほどの幼若個体個体を用いているため、組織ごとのnorthern blottingのサンプル調整ができない上に、8.5 kb, 16 kbと非常に長い分子であるためのnorthern blotting自体が困難であるためである。2019年度の研究により、研究室でタンパク質発現の実験系を導入出来、カワカイメン幼若個体個体を用いた抗体染色に用いることの出来る固定液を1種類増やすことが出来たため、これらの知見の上に、今後の研究に用いることの出来る抗体価の高いポリクローナル抗体を複数得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
上皮細胞接着面の検出のため、カワカイメンの2つのカドヘリン遺伝子に着目、ポリクローナル抗体作成のため、組み換えタンパク質の大腸菌での発現を試みたが、発現したタンパク質6種類全てが不溶性であり精製できず試行錯誤に時間を要した。工夫して精製した抗原を用い最終的に得られた抗体の抗体価が低く、当研究遂行のためには、抗原から再検討して抗体作成を再度試みる必要があるため。2020年度は、前回とは異なる領域を抗原タンパク質として大腸菌に発現させ、可溶性であり、精製できるタンパク質を抗原として得、ウサギに免役しポリクローナル抗体作製を行う。
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