研究課題/領域番号 |
17K07407
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮西 正憲 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 研究員 (80542969)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / 自己複製能 / Hox遺伝子 |
研究実績の概要 |
造血幹細胞(Hematopoietic stem cell: HSC)は、自己複製能と多分化能を有する血液細胞と定義づけられ、造血系の頂点に位置する組織幹細胞である。造血系の恒常性維持のため、HSCの一部は、細胞分裂に伴い、その機能の一部を失いながら段階的に分化を続け、最終的には赤血球、血小板、白血球といった種々の成熟血液細胞となる。自己複製能と分化のバランスを保つことで、HSCは長期に渡り機能を維持したまま生存することができる。しかし、どのような機序で、このバランスが保たれているか、その詳細な分子機構は殆ど明らかになっていない。 モノクローナル抗体とフローサイトメーターを用いて定義される従来のHSC(immunophenotypic HSC: pHSC)分画中に “自己複製能を長期に渡り有する長期造血幹細胞(Long-term HSC: LT-HSC)”と“自己複製能のみが減弱もしくは欠損した短期造血幹細胞(Short-term HSC: ST-HSC)”が混在することが、その要因の一つであることから、我々はこれまでに、LT-HSC特異的にマーキングする遺伝子としてHoxb5を同定、さらにこの遺伝子をレポーターとする遺伝子改変マウスを作製することで、LT-HSCのみを純化することに世界で初めて成功してきた(Nature, 2016)。 Hoxb5はマウス骨髄内において、LT-HSCのみに発現する遺伝子として初めて同定されたが、これまでにHSCの機能に関する報告はない。一方で、Hoxファミリー遺伝子の中には、造血能への関与が報告されている遺伝子も存在することから、Hoxb5が血液細胞、特に唯一発現の認められるLT-HSCの機能を制御している可能性は高い。 そこで、本研究ではHoxb5遺伝子を中心に、LT-HSC分画における生物学的役割の解明を目標としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年7月付けでの勤務地移動(京都大学から理化学研究所)に伴い、理化学研究所生命機能科学研究センター内にて研究環境のセットアップをまず行った。現在、本研究に必要な、実験機器、動物実験施設、オミクス解析、また本研究に関連する倫理委員会の承認等全ての準備が完了している。また同施設において、これまでの実験条件の再現性の確認および再至適化に関しても、順調に完了した。 これまでにHoxb5レポーターマウスを用いて、pHSC分画よりHoxb5陽性、陰性分画に分離し、各々10細胞ずつを2x105細胞の競合する骨髄細胞とともに致死量の放射線照射したホストマウスへ移植を行うと、Hoxb5陽性HSC分画のみがLT-HSC様表現型を示し、Hoxb5陰性HSC分画はST-HSC様表現型を示すことを明らかにしている。そこで、LT-HSCとST-HSCの生物学的相違が自己複製能の有無のみであることより、Hoxb5をST-HSCに遺伝子導入することで自己複製能を再獲得できれば、Hoxb5は自己複製能を制御する遺伝子であると証明できる。 この仮説を証明するために、レンチウイルスによる過剰発現系を用い、ST-HSCにHoxb5遺伝子を発現させ、その表現系の変化を観察した。HSCはレンチウイルス感染に対して極めて高い耐性を有しているため、まず高タイターウイルスの作製と感染ステップの最適化を行うことで、100%の遺伝子導入効率を得た。上記のHoxb5過剰発現ST-HSCをin vitro培養分化実験およびマウスへの移植実験での長期に渡る造血能を検証したところ、Hoxb5をST-HSCに導入することで、ST-HSCの分化が抑制され、マウス生体内でLT-HSC様の表現型を獲得したことを証明した(未発表)。 現在、これらのデータをまとめ論文執筆中である。また上記手法に関する特許も申請済である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、平成30年度以降の研究計画である『マウスLT-HSCに発現するHox遺伝子のスクリーニングおよび機能解析』および『マウスLT-HSCにおけるHox遺伝子による遺伝子制御の解明』に向けた準備を行っている。 Hox遺伝子のスクリーニングおよび機能解析に関しては、Hoxb5レポーターマウス骨髄細胞より分離採取したHoxb5陽性HSC分画とHoxb5陰性HSC分画を用いて、RNAseqによるトランスクリプトームデータの採取を完了した。これに既存のマイクロアレイデータを含めた総合的なトランスクリプトーム解析を現在行っており、Hoxファミリー遺伝子を含めLT-HSC特異的に発現する遺伝子群のスクリーニングを行っている。スクリーニング終了後、候補遺伝子を含むレンチウイルスベクターの作製、高タイターウイルスの作製を順次行い、上記のin vitroおよびin vivo機能解析法を用いて、同様に自己複製能に関連した機能を有するかを検証する。 Hox遺伝子による遺伝子制御の解明に関しては、平成29年度研究にて、Hoxb5遺伝子が自己複製能を制御する遺伝子であることを実証したので、転写因子であるHoxb5遺伝子の下流で、どのような遺伝子群が実際に発現し、自己複製能を制御しているかを明らかにする必要がある。下流遺伝子の同定に、ChIP解析法を用いたスクリーニングを行う。しかし、一般的にChIP解析には106-7程度の細胞数を要する。1匹あたり500-1000 LT-HSCしか採取出来ない技術的ギャップを埋めるため、現在、高感度ChIPアッセイを開発途中である。バックアッププランとしては、現在スタンフォード大学との共同研究としてATAC-Seqによるクロマチン解析を行っている。
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